リレー小説・僕らのPBM白書
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   これは、ホビーデータの某アラベスクシリーズでの話。
 F上さんと言う人に宛て、手紙を送りました。これが初めての交流と、ドキドキしながら返事を待ってい
たトコロへ来た返信からは、何と意外な返答が!!
「私は住所非公開なんですけど、どうやって手紙を直接送ってきたんですか?」
 そ、そんなバカな! 現に私のRAにはしっかりと彼女の住所が書かれているではないか?! 何だかいき
なり妙な事言われたが、このまま私は初めての交流をちゃんと出来るのか?
   そんな内心ビクビクしながら手紙を読んでいると「今後もよろしくお願いします」と、最後に締めくくって
いた。ホッと安心。どうやらこの手の事には割と馴れているらしい。
 後で知った事では、こういう事故は以前から消えずにあるそうだ。まぁ、事故の対処にホビーデータは何千
万と出費してきたと言う話と合わせて教えてもらったのもあるんだろうけど、ホビーデータにもプレイヤー
にも、お互いに気の毒な話ダネ。そんな感想でこの話は終わった。

 二度三度、彼女と交流を繰り返していく内に「グループ・アクションをしませんか?」というお誘いが来た。
で、そのグループ・アクションと言うのは……、
 
「……という訳なんですよ。私困っちゃって」
「それは無理難題だね」
 Y塚学院高校のTRPGサークルの定例集会で、私はそのことを明仁先輩に報告していた。
「そうかァ。京子くんの交流相手と言うのが、よりにもよってF上さんとはねェ……」
 聞けば、F上さんと明仁先輩というのは、パソコン通信全盛期時代からの知り合いだったらしい。
「……世間って狭い」
「いや、よくあることサ。京子くんにもいずれ判る」
 そんなものなんだろうか?
「ねーね、F上さんって、あのカーラさんのプレイヤーさんでしょ? 前作のEJブランチで大活躍だった……?」
 サークルに遊びに来ている、先輩の妹で中学生の薫子ちゃん(私より年下とは言え、こうみえて幾つものPBMで大活躍をしている、凄腕のゲーマーさんなのだ)が不安そうに聞いた。
 聞けばなんでも、F上さんは去年のゲームで大きな活躍をしたプレイヤーさんだったらしいのだが、そのゲームの終盤で交流者さんから手痛い裏切りを受けたらしい。おまけにマスターの誤解から、リアクション上で「F上さんの方が悪い」というような扱いを受けてしまい、マスターの解任騒ぎまであったらしいのだ。
「そんなことってあるんだなあ」
「相手方の事情も知っているだけになァ。コメントしづらいヨ。あれは不幸な事故としか言いようがない」
 明仁先輩が、その事件を回想してそう評した。
 私は人知れず、このPBMをF上さんにとって「PBMってやっぱり面白い!」って再認識してもらえるような、そんな思い出に残るようなゲームにしてあげよう、と心に誓うのであった。

 帰り際、明仁先輩と薫子ちゃんと、次回のアクションについて相談した。明仁先輩から「NPCのマリオンとヴァネッツァは同一人物だと思うので、その予想を活かしたアクションをかけてみたらどうか」というアドバイスを受けた。F上さんにも相談してみようと思う。
 

「悪役NPC、ヴァネッサとの対決に際しては考える事があるので、できれば手出しはしないで欲しい。できればその援助をお願いしたいが、無理にとは言わないし、そちらに考える事があるのならこちらは支援するつもりでいる。裏切るのも信じるのも自由、お互いを縛らないように、好きなようにやりましょう」

 F上さんからの提案と言うのは要するに、お互いの細かな事は非干渉にしよう、という内容なのである。以前に交流相手から裏切られたらしい、F上さんの過去を考えれば、彼女なりの気配りのつもりなのかもしれないが、彼女のやりたい事と言うのが、手紙からは読み取れず、正直困っている。
(要するには、コンピュータRPGのパーティのようなもの。イベントが発生して、これまで仲間だったキャラクターが、敵に寝返ったりすることだってあるでしょう?)
 そんな割り切りが見え隠れする。これまで思い描いていた「グループアクション像」と、少々イメージが違っていてどうすればいいのだろう。戸惑ってしまう。
 ここは気分転換。他の交流者さんにも相談してみよう。ごちゃごちゃと周辺機器を増設してある、もとはB5ノートであったはずの愛用のパソコンに電源を入れ、インターネットに接続する。私がPBMのことを知ったのも、もとはインターネットのチャットがきっかけだったものだ。
 インターネットにも、PBM関係のサイトはいくつもある。まず、PC発言BBS。これはPC(プレイヤーキャラクター)発言、つまりゲーム中で自分が受け持っているキャラクターになりきって、そのPCの口調を演じて発言する、参加企画のようなものだ。PC同士の面白おかしな、時に深刻な遣り取りが楽しく、つい見入ってしまう。
 ふと、同じブランチで見かけた名前を見かけて、マウスを握る手が止まる。インゴマルさんという方の投稿文。

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Subject:マリオン様にラブラブ
Name:インゴマル・グラーフ

マリオン様にラブラブ〜。
誰にもマリオン様を渡さないよん。
ところで、マリオン様ってヴァネッサと同一人物っていう噂、本当なの?
私、ヴァネッサのこと大嫌いなんだけど。
同一人物だったらすごく嫌だああああ。
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 マリオンとヴァネッサが同一人物、という見方は、明仁先輩や薫子ちゃんの他にもいるようだ。
 それにしても、あのマリオンに追っかけキャラクターがいるとは……。もしもマリオンとヴァネッサが同一人物であるという予想が真実なら、インゴマルさんはどうするのだろう。とりあえず、返信を返しておいた。
 PC発言BBSに投稿すのは初めてだ。これもロールプレイの練習と思い、自分のPC“キューティーズ・ブラック”の容姿をイメージし、演じる。イメージの中にある、大鎌使いの小柄な少女が、仮想世界の酒場にいるインゴマルさんに、斜に構えた口調で話しかける。

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Subject:よォ……。
Name:キューティーズ・ブラック

 僕はキューティーズ。大鎌使いの暗黒神官、キューティーズ・ブラックだ。
 ここでははじめまして。まあ、宜しくな……。

>インゴマル
 マリオンとヴァネッサが同一人物……か。その噂は僕も聞いた事がある。
 それが事実なら、僕も困ったことになる。思案するところだ……。
 ま、お互い大変だな……。  
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 インゴマルさんには頑張って欲しいものだ。展開によっては敵同士になってしまうかも知れないが……。
 他の掲示板も見てみると、プレイヤーサイドの掲示板にも投稿がある。私宛てのメッセージだ。以前、チャットで知り合った“GODZILLA!!”さんと言う方から。

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Subject:GA(グループアクション)について
Name:GODZILLA!!

> kyo-ko
昨日のチャットでは有難う。色々と新鮮な意見を聞くことができ、有益でした。長くPBMをやっている身には目から鱗が落ちる思いです。
さて、初めてのグループアクションで、色々不安になっているそうですね。確かにGAに関する交流トラブルの話は、昔から絶えず、色々難しい問題もあります。
アクション会議で、なかなかグループメンバーが積極的に意見を出してくれないと嘆くGAリーダーの話がある一方で、何から何まで「上層部」で方針を決定してメンバーに指図していたGAグループが、何の相談も無く不本意なアクションを押しつけられた新参メンバーから反発され、喧嘩になってしまった例など、色々と聞き及んでいます。
あと、やはり大人数のGAはやはり威圧感を感じますね。昨年、他社のPBMで、多人数を組織して特定のブランチに押しかけ好き勝手をするという、困った多人数GAに居合わせました。あのGAはネットで喧嘩沙汰になったそうですが……。
かく言う私も以前、大人数のGAに参加していたのですが、グループの行動に対して匿名の抗議文が届くというトラブルを経験しています。確かに「ストーリーを面白くする」という目的で始めたはずのGAが、結果的に視野を狭め、GAメンバーでの利益しか考えないようになってしまうというのは本末転倒、ではあります。
kyo-koの場合は、二人組のGAだそうですね。特に大きな目的があるGAではないのなら、2、3人のGAはバランスも取れていると思うし、有益な面も多いと思います。影ながら応援しています。 
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 グループアクションと言うのも大変なものらしい。本当に自分に勤まるのだろうか。

 もう一度リアクションを読み返して、対ヴァネッサ戦に備え、情報を整理する。インゴマルさんのような、ヴァネッサ/マリオン周辺で動いている、他のPCさんたちの動きもチェックしておかなければ。メモ張とエンピツを用意し、情報を整理したり、活躍している他のPCさん達の一覧などを、簡単にまとめてみたりする。
 ふと気がついた。リア中の言動から、インゴマルさんのことを可愛い女の子だと思っていたのだが、実は男性の成人のキャラクターだった(PCの一覧には「20歳/男」とある)。
「……つまり“やをい”って事だよね」
 思いがけず頬が熱くなった。
 
 リアクションはすぐには来ない。マスターの執筆期間は短いと言われているが、それでも今月書いたアクションがマスターに判定されて帰ってくるのは来月になる。
 その間に行われるプレイヤー有志による集会をプライベート・イベント、略して「プライベ」と呼ぶ。ちなみにマスターを呼ぶと「お茶会」になる。何故かは聞けなかった。是非明仁先輩に今度聞いてみよう。

「やあ、どこのブランチの人?」
 市民会館に到着した矢先、突然その人はそう声をかけて来た。
「え? あの、どちら様ですか?」
「俺? 俺はここのプライベの主催者さ。いま利用者名簿を作るために、ブランチとキャラクターの名前を教えてもらってるんだ」
 何でもマスターを呼んでお茶会を開催したいので、そのために色々調べたいらしい。
「はい、ご協力ありがとうっ!」

 受け付けが済み、私は自分のブランチの集まってる人たちの場所で話をした。やっぱり自分と同じ場所で遊んでいる人と話をするのが基本だろう。
「ああ、キューティーズさんのプレイヤーさんでしたか。どうです? 次の作戦は決まりましたか?」
 当然だろうけど、会話の興味は『次に何をするか?』『このキャラクターをどう思うか?』に集中する。私はマリオンとヴァネッサが同一人物じゃないかという
疑問を投げかけ、それに関して何かやろうと思っている事を話した。
「成る程ね〜。こうもよそうが同じ方向に向かうとなると、本当に同一人物かもね。違うと思ったんだけどなぁ」
 さっきから熱心に聞いてる人がそう感想を返した。
「他にもそう言った人がいたんですか?」
「うん。さっきまでいたヤツらで『黄金の夜明け』のグループがいたんだけどさ。ソイツらもそう言ってたんだ。こうなると本気でそう考えた方がいいかな……」
『黄金の夜明け』は私もよく覚えている。第二回から突然現れて、共通リアクションに5人も掲載されていたグループだ。後で聞いた話によれば、『黄金の夜明
け』は5人のグループらしい。つまり突然やって来て全員共通RAに掲載される様なアクションをかけたらしい。どうやったらそんな真似出来るのか、教えて欲しかったな。
「ワタシあのグループ嫌いだな〜。だってスゴイギャグなんだモン!」
 確かにあのグループ構成はギャグだ。1人はゴンタの着ぐるみをかぶった大男だし、"やをいカップル"がグループのリーダーだったりする。
「信じらンないわよネ、アイツら。あんなギャグでリアクションを埋めるなんてサ。モッタイナイって思わないのかしら?」
 ……これは、価値観の問題だからとやかく言えないんだろうな。この人から見たらリアクションは『美しいストーリーを楽しむ物』であってギャグを書いて笑い合う物じゃないってだけなんだろうし。他人が同じ読み方をしないのが、ちょっと信じられないだけだろう。
 でも、勿体無いかと聞かれたら、本当にどう答えればいいのかわからない。文章は『どこにお金を払っているか?』なんて人それぞれだろうし、第一彼等のしたい事がギャグなら、マスターに共通リアクションに掲載までされた『黄金の夜明け』はマスターとプレイヤーの意志の疎通が合致して、誰よりも得をしたのではないか?
 どうやら明仁先輩に聞きたい事がもう1つ増えた様だ。
   月曜、放課後の学校。
「なるほど。つまり楽しみ方が違うプレイヤーが混ざっているのを見つけたんだね?」
「はい」
 私はプライベで見た事を明仁先輩に話した。
「ま、気にする事じゃないと思うよ。よくある事だし、この問題に関してはどこの見解も『ブランチ移動して自分の思った通りの場所に行けばいい』なんて言ってるよ」
「それは……無責任じゃないですか?」
 正直に言ってみた。移動すればそれで本当にいいのだろうか?

 例えば、政治の物語に参加したければクレギオンをやるという手段がある。前に見せてもらったのを読んだ限りでは、SFも混ざっているけど決して荒唐無稽なバランスでは無いと思う。
 でも、アラベスクは冒険と銘打たれている。世界の崩壊を防ぐヒーロー活劇が、最近はメインだそうだけれど、後はマスターとNPC以外にはあまりブランチ選択に幅が無い感じがする。
 どんな冒険がしたいか、プレイヤーが選ぶ権利はもっとあっても良いのではないだろうか?「このブランチ面白くなかった」と言えば、お金返してくれる訳じゃないし。

「うん、無責任だよ」
あっさり認めました。
「それが今のPBMの現実なのさ。どっちかと言えばリアクションの販売とか始めて、最近はよりブランチ移動しやすい環境を整えてるって感じだしね」
「どうせなら最初からブランチ移動しなくていい、確実なブランチ選びがしたいです」
「うん、正論だね。でもそれは無理さ。マスターの面白いつまらないを抜きにしても、初心者はマニュアルと宣伝広告だけで、そのゲームがどんなジャンルか判断しなきゃいけないしね」

 明仁先輩言った事は、大体こんな感じだった。
 ゲームの面白さを決めるのは、まず世界観である。それで、アラベスクは「今やってるゲームは多分これ以上世界観が変化する事がまずないから、ずっと一定の面白さが得られますよ」と言うのがシリーズ物の利点として受け継がれているらしい。なので、面白くないと思ったら遊ばないという選択が中級者になれば出来る。マスターも交流を深くやり、どんなアクションでどんなリアクションが返ってきたか詳しく見せてもらえば傾向と対策が練れる(この辺は交流の問題)。
 そして、この利点は絶対に中級者にならなければ得られない。だから初心者は、周囲に適当な中級者を見つけて自分を中級者に引き上げてもらうしかない。

「これが現状というものさ。元々RPGが親しい友人同士で遊ぶゲームなんだからね。プレイ・バイ・メイルとか言っても結局は、お互いの遊び方を知り尽くした『友人・知人』でないと遊べないゲームの延長なのさ」
「それって、商業PBMを完全に否定した言葉に聞こえるんですけど」
「否定なんて程の事はしないよ。ただ、友人同士で遊ぶのと、商売でやる遊びは基本が違うんだ。その辺は批判するね」
 明仁先輩はゲームの遊び方には常に目的があると言う。きっとその事なんだろう。
「それよりさ、今度新しくドラクエの利点を組み入れた同人PBMをやろうと思うんだ。何と! 死んでも所持金が半額になって生き返るんだ! これは斬新で画期的だよ〜。何と言ってもマスターが躊躇無くPCを殺せるから。生き返るし」
「あの……先輩?」
 私は返答に困った。本当に困った。
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