第6回リアクションN『天を射抜く矢』(相沢由衛マスター)より要約  かつて只一人、法の神ルフォと呼ばれた者が座ったのみとされる神殿最奥 部の禁忌の間『神の座』に、レフカス正教会最高司祭エルグラディス・ワー レンボルトは座していた。「全てが平等な世界」を理想とするこの老人は、 ハンターたちを見下ろし微笑を浮かべ宣言する。 「価値は一つあればよい。神の価値、その絶対的な一つに、君達は、従うだ けでよい」 「全てが終わった時、君達は私を神と呼ぶ事になろう」  戦闘の場が大神殿に周辺に移り、アミロス市街地に残ったハンター達は負 傷者の救護に追われていた。アミロスに響いた鐘の音を聞き、突然気を失っ て倒れたメリナ・プリカの身を案ずるハンター達。 「彼女は、レイバードールなのですか?」  誰もが抱いた疑念を、あるハンターが口にするが、リューネ・デュイセス は首を振って否定する。 「否。彼女は……力です」 「人が生み出した神を御する鞭。それが彼女」 「力を自制するシステムとして心が付加された。しかし、それは鐘の音によ って砕け散ってしまう、ほんの小さなもの」  儀式は、もう止められないのか。ハンターの疑問に対してリューネは答え る。 「大きすぎる力を制御するには、鞭だけでは駄目です。大地の欠片(ノエー マ)を散りばめた冠をまとわなければ」  その時、突然にメリナ・プリカが目を覚まし、立ち上がる。  驚くハンター達に、リューネは震える声で、滅びの宣告を行う巫女のよう に皆に告げる。 「滅びが始まりました。いえ、再構築、というべきでしょうか」  メリナはゆっくりと口を開ける。  歌のような、祈りのように発せられた、ただ純粋にエネルギーの塊と化し た超音波の叫びがアミロスの市街を駆け抜け、激震をもたらした。  セフィとルオー、卓越したフェンサー同士の師弟対決は、セフィに不利な 状況で進んでいた。負傷に耐えて戦うセフィに対し、師ルオーの剣は七年前 よりも更なる鋭さを増していたのだ。  その時突如、メリナの発した叫びによる地震がアミロスを揺する。その揺 れの前には、二人のフェンサーとて立っていられない。 「もう始まってしまったのか」  ルオーが片膝をつき呟いた瞬間、激震を冒したセフィの一撃がルオーを捉 える。切り裂かれた右腕を押さえ、揺れの中で立ち上がルオー。 「だが、貴様にかかわっている暇はない」  一撃を放ったまま動く事のできないセフィに一瞥をくれると、ルオーは去 り、神の杖を目指して呟く。 「わが世界に、神は必要ない」  激しい揺れは、神の杖を守る外殻に深刻なダメージを与え、クリーチャー 達の侵入を許してしまっていた。神の杖のように堅固な構造も持っていない 大神殿は支えを失い、崩壊を始めていた。  ルオーとの戦いで深手を負った神殿守護騎士団騎士隊長セフィ・レフオル ドは、彼に付き従うハンターに支えられ、脱出もままならぬ状況にあった。 自分を置いて逃げろ、と彼は傍らのハンターに指示する。 「よかねぇんだ。あんたは、まだやんなきゃいけない事があるだろう」  だが、轟音をたてて、柱が倒れる。最後の瞬間、セフィは自分が女性であ る事を明かし、自分に尽くしてくれたハンターとくちづけを交わす。  神殿守護騎士団騎士隊長セフィ・レフオルドは、人生で最初で最後のつも りの微笑を見せ、さらばと別れを告げる。  届かない、ハンターの叫び。崩壊によって降り注ぐ土砂が全てを飲みこん でいった。  崩壊の兆しが見える書庫で、脱出を呼びかける仲間のハンターに、リュー ネは軽く首を横に振って応える。 「ここで、さよならですわ」 「鎖は解けてしまった。わたしの役目もここまで」 「太いなる鎖も、輪が解けてしまっては鎖ではなくなってしまう。わたしは、 それを防ぐためにここに来たんですけど」  リューネは自分がグレート・チェインズの一員である事を明かし、ハンタ ー達やエルグラディス、ルオーたちを利用して来た事を告白し、自虐的に笑 う。 「でも失敗しちゃいました。もう、おしまいですね。わたし」 「何を言ってるんですか?」 「たくさんの人が死んでしまって、でもそれでも良いと思ってた。あの人の 暴走を止められれば、それでもいいと。でも駄目だつたみたいです。だから、 わたしはここでおしまい」 「何を言ってるんですか!」  その瞬間、天井の亀裂はつながりをなし、一気に崩壊した。  絶望の淵に立つ者もいれば、希望を失わぬものもいる。「皆が協力し合い、 皆で生活を、命を、笑顔を、幸せを作る」という希望を信じたルーフィア・ フォントは仲間達の助力で、崩壊した神殿からの脱出を果たす。  神の杖劣勢。その報を聞いたハンターの一人が、 「準備はいいかい? 行き先は神の杖だよ!」  他のハンター達が喚声をあげる。彼等は援護に向かうべくエアバイクで出 撃していく。  大神殿の中央、夜空のスクリーンを背景に、黒く染め上げられた筋い尖塔。 それはまるで、天を刺す矢のように見える。その先には、大きな月がある。 「目覚めの鐘かなり、時を越える矢が現れる。矢は蒼天の月を射止め、そし て神が降りる」  神殿の書庫にあった伝説の一節。それが実現しようとしている。  老人の持つ、炎のような情熱と、病のような信念。それが本当に世界を変 えられるのか。 「もはや、ー刻の猶予すらないと言う事ですか」  メリナ・プリカは再び意識を失い、眠っている。 ◆次回メインRA一覧 N01)神の杖を防衛する N02)「月を射止める矢」へ向かう N03)市街地の災害に対応する N04)行方不明から生還する(生還のしかたを明記してください)