ステラマリス・サガ 天上の楽園へ
1503 食料カロリーブロック新製品 第2回

「食料カロリーブロック新製品」

桜木美夜マスター執筆


●送ったイベントハガキの内容

■目的
 審査員として、試食に参加

■動機
 試食品には認可を受けていない、未知の材料が数多く使われていますので、事務書類を作るのが目的です。成分分析担当ですわ。

■プロット
 どちらかと言うと、皆様も闇鍋パーティの雰囲気を楽しむのが本意のようでございますし、多少問題のある材料が検出されても記録メモを取るだけで、取り締まったり指摘したりするような、無粋なことはいたしません。第一、成分の人体への影響を確認するチャンスでございますし、わかっていて志願するハンター様たちもきっと本望でございますわ。ギルドに所属するハンター様たちの、毒物に対する耐久性を試験するのも目的の一つです(猫をかぶって、黙っておりますけど)。
 私、スレイヴドールですので人間の味覚はよく分かりませんが、盛り付けの美しさや食感の面白さ、アイディアの奇抜さ、成分の薬効作用(を評価することはできますわ。鋼鉄の胃袋の強み、他の審査員がバタバタ倒れていくような状況でも天然ボケを装って、一人ほんわかにこにこと食事を楽しむことにいたしますわ。


リアクションあらすじ

 総務局の食料事業部が生産・管理・配給を行っている食料カロリーブロックの消費量落ち込みに歯止めをかけるため、新テイストのコンテストが開催された。
 料理に使うため、前回集められた食材はクリーチャーの肉を使ったゲテモノ系と、ブリトマルティス周辺で入手できる果実を使ったフルーツ系が主である。
 それぞれ、インパクトで攻める者、食感や調理法に工夫を凝らす者(これは、工場に新設備を導入する余裕がないために却下された)、こってり味が多いことを予測してあっさり風味で攻める者、コストパフォーマンスを重視するものなど、戦略はさまざまである。会場には大量の胃腸薬が用意されたが、全体的な傾向としてはフルーツ系に人気が集中し、真面目な応募が多かった。……中には、自分の料理の試食中に倒れた者もいたのだが。
 もっとも、最終的には、強い権限を持つ食糧事業部担当課長のクリルを色仕掛で釣る、という作戦が勝負の行方を決めることとなった。カロリーブロックの新ティストは、美形の男に釣られたクリルのゴリ押しでパイン味に決定し、優勝者のギリアン・パードリィス(SS0172)には食料カロリーブロック一年分と、クリルとのデート権、そしてわずかばかりの賞金が渡された。
 そして騒動の終わった会場には生ゴミの山と、後片付けを任されて途方にくれるアートの姿が残されるのであった。

ヴァイオラの登場シーン・ピックアップ

Scene 6 「だってSVDだもん」より

 味覚プログラムとセンサーが簡単に取り付けられるものなのかは知らないが、今回はセリアス以外にもスレイヴ・ドールがコンテスト会場に姿を現していた。
「何がコンテストだい!」
 食事も出来ずに飢えているスラムの子供達の代弁者を豪語するモデルのサーティー・フォー。貧困の現実から目を逸らしている奴らに目にものを見せてくれると意気込んでの参加らしい。
「これが、スラムの残飯の味さ!」
 いやー、コンテスト会場でそういう惨めったらしいことを暴露するより、真面目に優勝狙って、賞金・賞品でスラムの子供達に食事を与えてやったらいいのに、と思うのだが、そういう考え方はサーティーにはないらしい。
「残飯でございますか。けれど、この成分のままではお腹を壊してしまいますわね」
 意気込むサーティーの出鼻を笑顔で挫いたのはヴァイオラ・ノインツィヒである。スレイヴ・ドールのヴァイオラは審査員として参加しつつ、成分分析をして事務書類を作る役目を担っている。
「食料カロリーブロックを主に摂取されているのはハンター様とお聞きします。ならば、成分を調べ、人体への影響を把握しておくことは必要です」
 最初からコンテスト出場と言うよりはスペースジャックで、自分の意見を言いたいだけのサーティーである。しかも、その作品が残飯と来ては赤信号が点る。
「残飯なんだから当然だろう。こういう物をスラムでは食ってるんだよ」
「そうなのですね。わかりましたわ」
「わ、わか……」
 ウサギ耳の童女が笑顔でわかりましたと告げるのを聞いて、さすがのサーティーも気が抜ける。しかも、咎めるどころか、書類に記入していながら止めることもしない。
「い、いいのか?」
「はい。私の役目は成分分析をして、書類に記入することでございます」
 咎められるのを前提で来ているだけに、逆にアッサリと通されると突っかかることもできない。通り過ぎていくヴァイオラをサーティーは見送るしかなかった。

「ふふっ。味見をする人が一杯いるわ」
 ここのところ、モデル業とハンター業で忙しく、料理を作る暇もなかったソニア・アルフォート。今回のソニアは自分の料理の腕を試しつつの参加と言うことで、趣味と実益を兼ねていると言える。
 さて、ソニアが用意した食材は、全長が1〜1.5メートルはありそうな巨大ミミズ!
 思わず、調理しているところを見て、人の足が遠ざかっていく中、果敢に近づいてきたのはビアンカ・サフェイセスである。
「困りましたわ。どれが一番美味しいのでしょうか」
 ビアンカはスレイヴ・ドールであるし、もちろん味覚プログラムなどわざわざ組み込まれているはずもない。主人に命令されて、仕方なくやってきたものの、どれに投票していいのかわからない。
「どうなさったのですか?」
 そんなビアンカに声をかけてきたのは、やはりソニアの料理に成分分析のために近づいてきたヴァイオラである。
「どれが好評なのかわからないのです」
「それは難しい話ですわね」
「どなたかにご指示を仰ごうかと思っているのですけれど」
「じゃあ、ワタシのに入れて頂戴よ」
 もちろん、二人に声を掛けてきたのはソニアである。臆せずに近づいてきた二人がスレイヴ・ドールだとわかったが、逆に味が分からなくても引き込めば得票を得られる。
「キミたちも審査員なんでしょ。じゃあ、他の人にもちゃんと試食して審査してって言って欲しいわね」
「試食なら、こっちもお願いしたいな」
 横から声を掛けてきたのは二種類提出しようとして却下を食らったルーク・ファントである。
 規則で「一人一種類」が決められているのだから、それは仕方がなかった。しかも、今回のコンテストは「新テイスト」であるにも関わらず、プレーン状態を主張している。
「それって、テイストなんてない方がいいということなの?」
 わざわざ巨大ミミズを捕まえてまで新テイストにトライするソニアには、ルークの考え方は解せない。しかも答えが。
「いや、そういう意味では……」
 単に味ではなく、食料カロリーブロックに回復薬の意味を持たせようとしているらしく、どこで手に入れてきたかわからないクスリ?を混ぜたらしい。
「それ、本当に美味しいの?」
「とは思う」
「思うって、味見してないの?」
 そういうソニアも思い出しながらの料理で、試食は他人任せだったりする。
「あ、でも……」
 互いに味見をしていない二人が見つめ合う中、ビアンカが何かを思い出す。
「あそこで、コリューンさんが“他人に出すなら、自分で食べて味の評価を出してみなさい”っておっしゃってました」
 そこまで言われては、さすがに試食をしないわけにはいかない二人。
「自分が食べるものは、自分で作った方が安心できるからな」
 そう言い切ったルークだったが、次の瞬間、その場にバッタリと倒れていた。
「ルーク様?」
「大丈夫ですわ。お薬の成分が検出されていますけれど、健常人のルーク様でしたら、すぐに気付かれると思います」
 慌ててルークを介抱するビアンカに、試食してケロリとした表情のままヴァイオラが答える。
「そ、それなら大丈夫ですわね」
 本当にそうか?と一瞬、二人の会話に目眩を感じながら、ソニアも試食をする。
 味は悪くない。ちょっとハーブを効かせすぎたかも知れないけれど、丁度いいんじゃないかと思う。
「ソニア様?」
 ビアンカの心配そうな声が聞こえるが、ヘラリとした笑みを向けたソニアは大丈夫大丈夫と言いながら、自分のコーナーに戻る。
「あ、あれにはどんな成分が……?」
 ビアンカは主人が「身体を悪くしそうだから、代わりに行け」と自分に言った意味をようやく理解した。

「うーん、やっぱり、ちゃんと味見をしてから出してもらわないとマズイでしょう」
「やはり、そうですよね」
 倒れてしまったルークを救護班に運んできたビアンカ。その報告を受けているのは、何でも屋にされているアートだった。
「課長に伝えておくので、審査の方はよろしくお願いします」
「あ、はい。……あの。でも、私は味がわかりませんので、アート様のご意見もお聞きしたいのですけれど」
「あはは、すいません。まだ決めてなかったりします」
 笑って誤魔化すアートに、ビアンカは頭を下げ、再び試食会場に向かった。

【NPC一覧】

クリル・テイルズ
総務局食料事業部担当課長/女
フィン・センツァル
「黒き死神」の異名を持つ1stランクハンター/男
アートレア・キューブ
総務局清掃事業部局員/男
クロセル・アルカード
魔導科学局・博士/男

【PC一覧】

セリアス・クレイドル
スレイヴ・ドール 10歳 男性 メイド / みかかさんのPC
サーティー・フォー
パラサイト 17歳 女性 モデル
ヴァイオラ・ノインツィヒ
スレイヴ・ドール 12歳 女性 ハンターギルド監察官 / TEDのPC
ソニア・アルフォート
上級市民 26歳 女性 モデル
ビアンカ・サフェイセス
スレイヴ・ドール 2歳 女性 メイド / 豊田みなみさんのPC
ルーク・ファント
レダ族 18歳 男性 バウンティハンター / 火鎌さんのPC
コリューン・ナツメ
フォーリナー 18歳 女性 モデル

 ソニアさんには、以前アクションシナリオの戦闘で助けられた恩があったりします。
 コリューンさんは、同名のPCであちこちのPBM(ホビデ以外含めて)に参加している方ですね。よくお名前みかけます。別ゲームで同じリアだったことも何度かあります。


●プレイヤーコメント

 確信犯でボケるヴァイオラ。執筆遅延で少々待たされましたが(8月期イベント結果と一緒に届きました)、楽しいりアクションに仕上げてもらいました。
 最初はヘンな食材を入れている人を咎めるアクションを書くつもりだったのですが、「カロリーブロック」参加プレイヤーのサイトを一通り回って、そりゃあまりに無粋なアクションだと思いなおして方針を改めました。でも、結局はサーティーさんのアクションを潰してしまっているような気もしますね。

 さて、前作「約束の地の探索者」では、『ステラマリス・サガの世界のカロリーブロックは、家庭ゴミから栄養成分を抽出して作られている』……という衝撃的な設定があって(もちろんゲームの中のお話です、念のため)、月刊ネットワールド1998年8月号の記事「ユズ・マリーティアが行く〜帝都ガイド」上で描写されています。総務局清掃事業部局員のアートがこのリアクションにいるのは、そういう理由がある訳ですね。その記事は当時の掲示板上などでも話題になったと記憶していますし、このアクションをかける時にも、当時の記事の記述を参考にさせて頂きました。そして、帰ってきたリアクション上には、明らかにNW1998年8月号の記事を意識したと思われるアクションもありました。
 その「ユズ・マリーティアが行く〜帝都ガイド」の連載を執筆していた藤代柚香マスターが亡くなられたという訃報を、みやかわたけし様の掲示板の書き込みで知りました。
 このアクションを提出して、リアクションが帰ってくるまでの間の時期の出来事であったそうです。この時期にこのイベントリアクションに参加したということに、何か因縁めいたものを感じるのは、自分の感傷でしょうか。自虐的なジョークやブラックユーモアを織り交ぜつつも、ステラマリス世界の人々の生活を楽しく面白おかしく紹介していた「〜帝都ガイド」の記事のことが思い出されれます。
 藤代柚香マスターのご冥福をお祈り申し上げます。


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