アナクロニスティック団体『グリューン』のテロ活動によって建設が頓挫していた第五都市だが、改修された惑星移民船を使って海上都市として運用することが決まり、華々しいオープニングセレモニーが行われる。都市の名称は一般公募の中から審査で選ばれ、ジルコン・アークデルタ(SS0001)の応募で「ディスカバリー」と命名される。
ハンターのための移動拠点都市という性質上、第五都市に住むことのできる住人は、競争率数十倍の審査を潜り抜けた能力の高いハンターに限られる。最初に行われたのはハンターの基礎能力を見る能力審査である。競技の最後に行われた障害物競走ではフェイヴン(NPC)という名の気障なハンターを加えたグループが驚異的な記録を叩き出し、審査員の注目を集める。
次に行われたのは模擬戦闘による戦術審査で、この競技ために多くのハンターたちが力を温存してきた。力任せにゴリ押しする者、練りに練った秘策や秘技を繰り出す者など、戦いのスタイルはさまざまで、ハンター同士の熱いバトルが繰り広げられる。
ところが、その競技の最中に事件は起こる。会場のいたる所から武装したテロリストが現れ、無差別に観客を攻撃し始めたのだ。事件の首謀者は、かつて『グリューン』の一員であったレシア・ドートという男。会場のスクリーンに現れたレシアは、自分の目的はあらゆる文明の発展の阻止であり、世界中のどこに建設しようが、第五都市の存在自体が豊かなイリテュイアを汚すものだと一方的に決め付け、都市の破壊を宣言する。観客の多くはハンターズライセンスを有する者であったが、突然の出来事にパニックとなり、会場は大混乱に陥る。会場の警備に当たっていた者や、競技に参加していたハンターたちの一部が事態の収拾に乗り出すが、戦闘は拡大していく。しかし、圧倒的な戦闘能力を持ったフェイヴンの参戦によって事態は鎮静化する。
テロリストによって競技場が破壊されてしまったため、競技は中止となり、審査結果はすべて白紙となる。また、テロリストの目の仇にされた第五都市の居住希望者が減ることも予想される。この事態に対抗するため、テロ事件が解決するまでの暫定処置として、テロリストと戦う気があるハンターは誰でも第五都市を利用することが可能、という方針が発表された。第五都市ディスカバリーはテロリストと戦う者たちの活動拠点となった訳である。
首都ブリトマルティスから南東の海上に巨大な船舶が浮かんでいる。船と称するよりも、その形状と大きさから、海上要塞と表現した方が似合いの容姿だ。この巨大船舶はこの度、第五都市として運用することが正式に決定した惑星移民船である。過去ステラマリスとイリテュイア間を航行したこの移民船は、主動力機関の故障から、現役運行を外され、移民船団の駐留地点であるセレノスの地表に投棄されていたものだ。しかし、廃棄された移民船といっても、その中身は最新鋭で通用する装備で充実しており、故障さえ無ければ現役で運行されていてもおかしくない状態のものである。
○
第五都市の外、甲板上に造られた特別競技会場には、多くのハンターと、これからおこなわれる競技を観戦しようと集まった観客で溢れていた。
見る者を魅了するオープニングセレモニーがおこなわれ、第五都市の誕生を祝い、同時に競技に参加するハンターたちにエールを贈る。
「なあ、おい。たかがセレモニーだと思っていたがよ、こういうのも悪くねえな。何かこう、嬉しくなるぜ」
イザ―ク・ファーレンスが、自分の横に居たフィル・ルミナスに話しかけた。
「そうだな。気分が高まるというか、やる気にさせてくれる。ただの居住権の修得目的ではでなく、あの歓声をくれる観客たちに応える競技を見せてやろう……」
競技会場はこれからおこなわれる、競技への期待と興奮から生まれた熱気で最高潮を向かえようとしていた。○
競技会場の裏側。表からはオープニングセレモニーの音楽や人々の歓声が微かに聞こえてくる。そんな中、一人のスレイヴ・ドール、ヴァイオラ・ノインツィヒが、頭の左右にあるアンテナをピンと立て、周囲の状況を警戒をしながら歩いていた。
「……ここには異常ございませんわね」
ヴァイオラは通路を行き止まりまで来たところで、ホッと胸を撫で下ろした。しかし、急にアンテナに生体反応をキャッチした。そして、その生体反応を確認しようとした瞬間である。凛と張った女性の声がヴァイオラの動きを止める。
「ちょっと、あなた。こんな所で何をしているのかしら?」
背後からの突然の声にヴァイオラはビクリとし、立ち竦んだ。
「まさかあなた、みんなが迷惑をするような悪いことを企んでるじゃないでしょうね?
……とにかくゆっくりと、こちらを向いて、あなたの名前と所属を答えなさい。少しでも変な動きを見せたら、命の保証はしないわよ」
ヴァイオラは女性の声に従いゆっくりと身体を向け、姓名と所属を答えた。ヴァイオラが言葉を返した相手は統括局就きのハンター、プテルナ・ケイルであった。第五都市開発の責任者であるリトス・アナンケーの右腕といわれるハンターである。
「……見たところ悪い人には見えないけど、こんな所でなにをしていたのかしら?」
「あの……、私ですね。審査会場のパトロールをしていたところでございます。都市建設に反対される方が、以前の事件のように、テロ活動をなさるのではないかと思いまして、微力ながらご協力をと……」
ヴァイオラは少しうつむいて申し訳なさそうに言葉を返した。さっきまでピンと立てていたアンテナを寝かせ、上目眼差しでプテルナを見つめる。
「ふう〜ん。なるほどね。でも何の許可もなくそういうことされたら警備する方が困るじゃない。今の状況だと捕まっても文句言えない状況だったわよ」
プテルナは少し呆れた口調で対応する。
「……申し訳ございません」
「まっ、いいわ。あなたのようなハンターが一人くらい居ると思ってたからね。統括局の認識証を一枚多くもらっていたのよ。
これあげるから、引き続き見回りしてくれないかしら?」
プテルナはジャンパーの胸ポケットから認識証と小型通信機を取り出し、ヴァイオラに手渡した。
「あの、プテルナ様。本当に頂いてよろしいのでございますか?」
「いいの、いいの。私が警備責任者だから。認識証の登録は直ぐにやっておくわね」
プテルナはヴァイオラに物を手渡すと忙しそうに立ち去るのであった。○
華々しいセレモニーが終わると、競技会場の第五都市開発責任者リトス・アナンケーが舞台に立ち、挨拶を述べる。
『本日、第五都市がイリテュイアに誕生することになった……』
リトスの言葉が会場中のスピーカーから流れると、セレモニーに興奮していた会場がにわかな静けさを取り戻した。巨大スクリーンに映るリトスは緊張している様子もなく淡々と言葉を並べる。
『……一般公募し広く第五都市の名称を募集させて頂いた。応募頂いたその中から厳選な審査をおこない、決定した名称は《ディスカバリー》。本日この場を持って第五都市は《ディスカバリー》と名称を新たにする』
リトスが都市の名を口にすると競技場は歓声に溢れる。
「……お、オレの応募した名前じゃねえか。まさか本当に選ばれるとは思ってもみなかったぜっ」
ジルコン・アークデルタは近くに居るハンターたちに、選ばれた都市名称が自分が応募したものだと嬉しそうに話した。すると周りのハンターたちはジルコンの喜びを分かち合うような祝いの言葉を返した。
『……そして、ハンターの諸君、よく集まってくれた。これより基本能力審査と戦術審査をおこなうが、この場の全員が第五都市の居住権が獲得できるよう、頑張って欲しい』
リトスによる開会の挨拶が終わると、ハンターたちは観客の拍手と歓声に送られ、退場していく。
ハンターたちはディスカバリーの居住権を得るための審査へ、心の高鳴りを感じていた。
(中略)
「ああっもう、どうしてこんなことになっちゃうかな」
会場の裏側で警備に当たっていたプテルナは小型通信機を取り出し、各警備斑に命令を伝える。
「……ティタっ、聞こえる? あなたとB班は会場で暴れてる武装兵士を止めて。その他の班は観客安全な誘導をお願い。不測の事態は各自の判断に任せるわ。私はレシアを捜すわ。まだ会場のどこかにいるはず……」
プテルナは小型通信機を無造作にしまうと、会場コントロール室に全カで走り出した。「あなた様はスクリーンで演説していらした方!? 逃がしませんわよ」
会場コントロール室近くの通路。ヴァイオラはスクリーンに映った男、レシアと遭遇した。予想していなかった事態に少々戸惑ったが、直ぐに身構えて戦闘態勢を整える。前もって呼び出していたデジタルクリーチャーのフローティングソードが、ヴァイオラを庇護するかのように飛び回っている。
「私と一戦交えると言うのですか? しかし私はそれを望まないのですがね。……致し方ないな」
レシアはヴァイオラの戦闘スタイルに合わせるように、デジタルクリーチャーを呼び出した。出てきたのは黒い毛艶を持つ三首の狼であった。六つの赤い瞳がヴァイオラを獲物として認識する。
ヴァイオラは少し重そうにガトリングガンを構えると、フローテイングソードを三首狼に嗾けた。
三首狼はフローティングソードを俊敏に避ける。ヴァイオラは三首狼の着地地点を予測し、ガトリングガンの引き金を引いた。
通路は硝煙の匂いとその煙が充満して視界が遮られたが、ヴァイオラは頭左右のアンテナを立て敵の検索をする。
「あぶないっ!」
通路脇からプテルナの叫び声が聞こえた。とその瞬間、ヴァイオラは飛び込んできたプテルナに押し倒され、同時に通路に爆発音が木霊する。
煙の向こう側から三首狼が攻撃を仕掛けてきたのである。プテルナはそれを直感で予測し、ヴァイオラを護ったのであった。
「あっ、プテルナ様。テロリストの方がここにいらっしゃいましたわ。早くお追いになりませんと……」
「うん、わかってる。レシアでしょ。でも深追いはしない方がいいわね。自分の手を汚さずに事を運ぼうとする奴だから、何をしてくるかわからないわ」
プテルナは煙が晴れた通路の先を見て、悔しそうに呟いた。○
「あんたさあ戦闘を拡大させてどうするのよ? こういうのは、もっと効率よくやらないとダメでしょう。相手は生身じゃないから思いっきりやれるだろ?」
武装兵士と警備班の戦いを見かねたフェイヴンがティタを助ける。
「言われなくたってわかってるさ。手出しは無用さ」
ティタは剣を構え直すと武装兵士に斬り、すれ違い様に三体の武装兵士を倒した。
「手出し無用? そういうわけにはいかないんだよ。これは俺の仕事だ」
フェイヴンは黒い翼竜型のデジタルクリーチャーを呼び出し、デジタルクリーチャーの背中に飛び乗った。
黒い翼竜の吐き出す衝撃波は、武装兵士を容赦なく的確に倒していく。その光景は圧巻で武装兵士をまるで相手にしていない。
「ふっ、こんな雑魚俺に任せろよ。あんたらは邪魔せずに見物でもしていな」
フェイヴンの活躍を主に事態は沈静化していつた。○
事態が収拾して数時間の時が流れた。半壊した競技会場の控えホールには、途中になった審査の再開を待つハンターがかなりの数残っている。とはいうものの、会場が破壌されたために、これ以上審査を続けることが無理な状態なのである。
「……俺のように、まだ戦術審査をしていないハンターはどうなっちまうんだ? この様子じゃ審査再開って訳にもいかなさそうだしな……」
イザークは不安そうに言葉を漏らした。
「今回の審査事態が全て無効になるんじゃないかな。普通に考えてテロリストに狙われた街になんて、誰も住みたくないはずだ」
フィルは誰も口には出さなかった正論を発した。この言葉に場は沈黙で包まれる。
「……審査が白紙になろうが、テロがあろうが、俺は居住権を貰う。その為にここまで来たんだからな」
フェイヴンが強い口調で、自分の意思を露わにする。
「ふふ、その意気だ。……諸君待たせてしまって申し訳ない」
控えホールにリトスが入ってくる。ハンターたちは、リトスの口から次に発せられるであろう審査についての回答に集中する。
「……まずは今回行った審査については全て無効扱いとさせて頂く。これは見ての通り、会場が破壌され、審査続行不可能の為である。そして当面、居住権を発行するための審査は執り行わない方針で決まった」
リトスの言葉にハンターたちが怒りの声を上げる。
「……話は最後まで聞きたまえ。今後もこのディスカバリーはテロリストの標的となるだろう。だからといって都市運営そのものを完全に放棄するわけにはいかないのが現実だ。その為、一連のテロ事件が解決するまでの間の暫定処置として、居住権の発行及びその為の審査は行わずに運営を行うことに決定した」
「つまりテロ事件が解決するまで、ハンターなら誰でも利用できるってことですか?」
ハンターたちの質間にリトスは頷いた。
「テロリストと徹底抗戦か……。なかなか思い切った対応処置をとったな。これから楽しくなりそうだ……」
フェイヴンはニヤっと笑みを浮かべた。
ジルコン氏と言えばPC番号0001番、8月期時点で最高レベルの人。他にも、アクションシナリオやイベントでよく見かける顔ぶれが揃っていました。
鳴海マスターの描くヴァイオラは妙にしおらしい印象。あと、うさ耳アンテナが大活躍。
一話完結のイベントとなっていますが、実質的には1501「新都市建設計画始動」の続編で、1901「赤いラピピの声明文」の導入になるイベント、といった感じの内容。なので、そういう内容を予想したアクションにしたのはドンピシャリの大正解でした。……とは言え、あまり役に立ってませんけどね(汗)。
上層部の許可を取ってから動く、というアクションは良し悪しで、上の判断を仰ぐアクションの類で「提案するだけで自分は何もしない」なんてのは、悪いアクションの例とされていますし、非協力的な上層部の許可が下りるのを待っていたら間に合わなかった、なんて例もあります。なので、あまり上層部の許可を仰ぐというアクションをかける習慣がなかったのですが、今回は裏目に出てしまいました。
まあ、「おすすめプロット」にない行動ですからね。
ここでキャラクターのジョブが「スペシャルセキュリティ」「騎士」「ソルジャー」辺りであったなら、また違った描写になっていたかも知れません。許可取る必要なさそうですし。ヴァイオラもハンターギルド監察官なので、「きちんとした警備体制が取られているか、不備はないか、厳しくチェックする」なんてアクションだったら咎められなかったかも……。
参加PC数は12名で、かなり少なめなのですが、PC数が少ない分はNPCが頑張って活躍しているという印象のリアでした。テロリストと戦っている描写をして貰えたPCはヴァイオラだけで、あとはNPCたちの戦いの様子が描写されています。他のPCさんとの絡みがないのは寂しいかも。テロリストの登場を予想していたアクションが他に無かったんでしょうか……まあ、12名ですからね。
正直、NPCばかり活躍して変なリアクションだなあと思いきや、リトス、プテルナ、ティタは前作「約束の地の探索者」NAブランチに登場していたNPCとのこと。
1998年10月号のネットワールドに、18歳の若々しいプテルナ、10歳のショタショタなティタのイラスト、元ベテランハンターだったリトスとプテルナの馴れ初めのエピソードが載っています。
なるほど納得。前作で鳴海マスターのシナリオに参加していた人にとっては、11年経ったNPCたちの活躍は大いに感慨深いはずです。前作からの参加者向けのファンサービスといったところでしょうか。自分も「約束の地の探索者」の続編的なエピソードを期待してステマリ3に参加したので、そういう心理は理解できます。
抜粋箇所を増やして、リトスやティタの登場箇所も載せておきました。
■目的
審査会場のパトロール。
■動機
この処置で、全ての都市建設反対派が納得するわけではありませんから。
■プロット
以前の事件に関わったわけではないので、詳しい事情は知らないのでございますが……。ブレンバルト・ジャーナルの記事を読む限り、アナクロニスティック団体『グリューン』の掲げる主張というのは、
> 過去ステラマリスでの発展、開発が生んだ悲劇から、新都市建設を反対
というものであって、つまり「主だった探索地で、ハンターの活動拠点となる」都市の建設というコンセプトにも、やはり相容れないことに変わりはありません。
人手が足りていない箇所を重点的にパトロールし、人間観察の特技を生かして、不審者の発見に当たります。あと、うっかり「実戦に見せかけた訓練」のような、悪趣味な余興などには引っかからないよう、注意したいところでございます。なお、自分が警備するのはあくまで審査会場だけでございます。都市の運用が開始されれば、その後の仕事は今回の審査で市民権を得たハンターに引き継いでいただくことにして、あとはお任せいたしますわ。