ステラマリス・サガ 天上の楽園へ
イベントリアクション1903 『巨乳』のメモリシア争奪戦?

「アカデミーに怪盗現る!?」

沙古潤也マスター執筆


リアクションあらすじ

 ハンターズアカデミー教官を務めるルカ・フォルケンは、生徒たちから狙われていた。ルカが自室で実験中の不安定なメモリシアの噂が歪んで伝わり、「ルカ先生は伝説の『巨乳のメモリシア』を所有しているらしい」という噂が立ってしまったのである。
 ルカには身に覚えのない話であり、口々に「巨乳、巨乳」と言いながら次々と詰め寄ってくる生徒たちとの間の会話も、さっぱり噛み合わない。とりあえずメモリシアを強奪しようとする生徒たちを相手に大暴れするルカである。
 噂を歪めて広めた犯人は、ルカが所有している実験中のメモリシアが目当てであったらしい。アカデミー生徒たちの起こした混乱を利用してルカに近づき、問題のメモリシア――『巨乳』ではなく――『変装』のメモリシアをまんまと手に入れると、そのメモリシアの能力を使って姿をくらます。「怪盗二億面相」を名乗る書き置きを残して。
 犯人の正体は分からずじまいであるが、その鮮やかな手際と射撃の腕前、使いこなしの困難であるはずの『変装』を易々と使ったことから、ルカには何か思い当たることがあるようだ。とりあえず、不安定だったメモリシアが大爆発を起こさなかったことに安堵し、あまり深く悩んだりしないルカであった。

ヴァイオラの登場シーン・ピックアップ

Scene 1「朝から大乱闘!」より

 朝の図書室は比較的空いている。部屋が開く時間から授業開始の時間まで短いこともあるが、朝早くから調べ物をしようという人間は、宿題に切羽詰っている学生ぐらいなものである。
 しかし、朝一番から宿題のためではないのに、図書館にこもりっきりの生徒がいた。
「……あった。これだな」
 ケイト・ツヴァイハンダーは目の前に置かれていた、新聞がまとめられたファイルに手をかけた。ケイトがファイルを手にしたその時、本棚の奥から何かが飛び出してくるのが見えた。
「おっと!」
 ケイトは本棚の奥から飛び出してきた、ボクシンググローブを上体で避けた。
「そんな手に何度も引っかからないよ」
 ケイトはグローブをひじ掛け代わりにして、ファイルの中を見た。
(……そろそろ改良が必要でしょうか?)
 入り口のカウンターに座っていた司書のレイス・カルヴンクルスは表情を変えずに、既に生徒に読まれ始めていた図書室のトラップについて考えていた。
「……これだな」
 ケイトの指先が『巨乳のメモリシア』と書いてある部分で止まった。
 新学期が始まったアカデミーでは一つの噂で持ち切りとなっていた。その噂とは、「ルカが「巨乳』のメモリシアを持っている」というものである。
 『巨乳』のメモリシアはステラマリスの時代から、いつも定期的に現れては消える都市伝説の一つだった。そのメモリシアがあれば、どんなツルペタな女性でも、たちまちお望みの胸になるということで、昔から女性の格好の話題になっていた。
 ただ、大体その噂はウソ臭いものが多く、今日までそのメモリシアが見つかることはなかったが、今回の噂は今までのものとは少し異なっていた。「あるらしい」ではなく、「持っている」とかなり具体的なものとなっている。しかも、その相手があのルカである。存在自体が何でもありなルカならもしくは……と思っても、ある意味当然だった。
 とりあえず、『巨乳』のメモリシアがどんなものかを探ろうと思ったケイトは、メモリシアの百科事典、過去の新聞や雑誌などを調べたが、結局噂ばかりが集まり、有力な手がかりは何一つ見つけられなかった。
「……これは直接本人に聞いたほうが早いかもな」
 ケイトは集めてきた資料を本棚に戻しながら、そうつぶやいた。

「そうだ、危険なことで思い出したが、お前の部慶の『アレ』はいつまでああやっているつもりなんだ?」
「大丈夫、今日には何とかするわよ」
「……どうせなら、爆発でもしてお前ごと一緒に吹き飛べばいいのによ」
「吹き飛ぶ時はあんたの部屋も吹き飛ぶわよ。保管庫、あんたの部屋の壁側に置いてるから」
「……てめえ、いつか絶対ぶっ殺す」
 騒がしい喋りながら、二人はリッジの教官室の前にたどり着いた。ちなみに、リッジの部屋の左隣がルカの部屋である。
「とっとと何とかしろよ」
「後で貸してくれって言っても、貸さないからね」
 リッジはルカとの会話を終えると、自分の部屋に入っていった。ルカも白分の部屋に入ろうと思ったその時、廊下の向こうから見覚えのある生徒たちが自分に向かって走ってくるのが見えた。
「おはようございます、ルカ先生!」
 元気良く挨拶したのはカノン・クラフトだった。
「おはよう……って、朝から慌てて、何か用なの?」
「あの……よろしかったら、『巨乳』のメモリシアを貸していただけませんか?」
「『巨乳』のメモリシア? 何それ?」
 突然のカノンの話に、ルカは困惑した表情を浮かべた。
「別に減るもんじゃないだろ? ちょこっと、持たせてくれるだけでいいからさ? いいだろ? やっばり駄目?」
 どこから潜り込んだか分からない、アカデミーの生徒でないフラッド・ブラッドが、カノンの言葉に便乗して頼み込んだ。
「だから、何の話よ? さっぱり分からないんだけど?」
「やっばり、何か条件が必要ですか?」
 ルカの話を聞かずに、カノンは話を進めていた。その時、廊下の反対側から大声が聞こえてきた。
「ルカ先生、『巨乳』のメモリシア、力ずくでも頂きます!」
 大声と共にノエル・ギルスがルカに向かって突っ込んできた。
「覚悟……ん!?」
 ルカに照準を合わせていたノエルだったが、廊下脇に隠れていた人間の存在に気がついた。
天泣セイレン!」
 アルメリア・ブルボンはノエルの頭上に水の塊を召還した。重力に引きずられ、水はアルメリアの頭に降りかかろうとしたが、ギリギリでアルメリアの攻撃を避けた。
「人様の物を奪おうなんて、いけないことですわ!」
 ルカとノエルの間にアルメリアが割り込んできた。そして、アルメリアはすかさず次の呪文を唱えようとした。
「ノエル、危ない!」
 密か回りこんでいたフリッツ・バーミリオンが網をアルメリアの背後から投げつけた。
「きゃあ!?」
 フリッツの投げた網は見事にアルメリアを包み込んだ。しかし、網の勢いはそこで終わらなかった。
「えっ!?」
 アルメリアを網はそのままノエルも包み込んでしまった。
「な、何ですか、これは!?」
「ちょっと、離れなさいよ!」
 二人がもがけばもがくほど、網は余計に絡まっていった。
「……何やってるんだか」
「ルカ先生、オレを弟子にしてくださ〜い!」
 もがく二人の横を通り抜けてきたのはアルファス・レイフォードだった。
「またややこしいのが来た……」
「お命……じゃないや、メモリシア頂戴!」
 アルファスはヒュージブーメランを手にルカに飛び掛った。
「……うるさいわね、もう」
 そう言いながら、ルカは軽く一歩下がって、ブーメランによる一太刀をかわした。攻撃を簡単に避けられたアルファスが間合いを詰めようとしたその時、さらなる声がアルファスの背後から聞こえてきた。
「ルカ先生、僕と勝負してくれ!」
 今度現れたのはエリオ・エスパーダだった。エリオも先程のアルファスの如く、ルカに向かって一直線に突っ込んできた。
「オレの勝負を邪魔するな〜!」
 アルファスは手にしていたブーメランをエリオに向かって投げつけた。
「うわっ……うぐっ!」
 アルファスのブーメランはエリオの胴体に見事命中した。
「男同士の勝負を邪魔する奴は、猫にでも蹴られて死んでくださあい」
 その言葉を吐いた瞬間、背後に嫌な冷気が流れた。
「誰が男同士よ!?」
 アルファスの言葉に気づいたルカはアルファスの背中に向かって両足揃えたロケットキックを反射的に繰り出していた。
「ぐはっ!」
「きやあ!?」
 ルカの一撃でアルファスは吹っ飛ぶと、網の側にいたフリッツを巻き添えにして、ノエルとアルメリアの上に圧し掛かった。そして、五人はちょうどリッジの教宮室の前で全員枕を並べて気を失った。
「朝からいい加減にしろよ……」
 騒ぎの収まった所に、リッジの部屋のドアが開いた。廊下の様子を見たリッジはうんざりとした表情をした。
「リ、リッジ先生、これは一体……?」
「おう、忙しいのに呼び出して済まないな、マミコ」
 リッジに呼び出されて部屋の前までやってきた校医のマミコ・ヤブサメは、廊下に転がる五人の姿を見て唖然とした。
「朝から大先生が暴れて下さったらしい」
「暴れてなんかないわよ。一発蹴ったらそうなっただけよ」
 ルカは廊下の五人を指差した。
「ちょうど良かったわ。そいつら、保健室にでも押し込んどいて。ついでにこの部屋に近づかないようにも言っておいて」
 ルカはマミコにそう言うと、部屋の入り口に張り紙をして、そのまま立ち去った。
「ちょ、ちょっとルカ先生!?」
「俺も授業があるんでな。そこにいる生徒たちでも使ってこいつらを運んでやってくれ」
 リッジは騒動に巻き込まれなかったカノンたちを指差した。
「それと早くこの階から避難しろよ。今の騒動で吹っ飛ぶ可能性があるからな」
 リッジはマミコの肩を軽く叩くと、そのまま授業に向かった。
「一体どういうことですか……って、行っちゃった」
 訳の分からないまま、マミコたちは廊下に取り残された。
「……やはり、ルカ様は一筋縄では参りませんわね」
 廊下の隅で一部始終を見届けていたヴァイオラ・ノインツィヒは、渋い表情のままその場から動かなかった。
「一線を退かれても、やはり1stランクハンターに勝てるはずもございませんでしたわね。生徒を焚きつけても、これでは意味がありませんわ」
 ヴァイオラはアカデミーに噂を流して、生徒と争っている間に漁夫の利を得ようとしたが、1stランクハンターの実力を再確認させられるだけに終わってしまった。
「でも、リッジ様の言葉といい、あの張り紙といい何かありますわね……もう一度作戦を練り直すとしましょう」
 ヴァイオラはスレイヴ・ドールのうさみみをピクピクと動かしながらルカの部屋の張り紙を見た。
『立入禁止! 廊下で暴れるのも禁止! あたしは部屋にいないから、用がある人はアカデミー内を探してね☆』

 廊下の騒動から何事も怒ることなく、平穏に一時間目の授業が終わった。
「い〜天気ね〜」
 渦中の人になってることに気づいていないルカは、昼まで授業が無いのをいいことに、アカデミーの中庭でのんびりと一人で寝転がっていた。気持ちいい秋の日差しに思わず寝てしまいそうになっていたその時、校舎の方からルカを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ルカ先生! 大変です!」
「あら、アイナちゃん。リッジの部屋でも爆発した?」
 アイナの声に対して、ルカの声はお気楽なものだった。
「そうじゃなくて、ルカ先生の部屋の前にこんな手紙があったんです!」
 アイナは手にしていた手紙をルカに差し出した。ルカはそれを手に取ると、中を見た。
「なになに……夕方、第四時限目終了時のチャイムと共に、貴方の持っている『例の』メモリシアを頂戴に預かります。怪盗二億面相……って、二億ってバカみたいに多いんじゃない?」
「いや、注目するのはそこじゃないと思うんですけど……」

【NPC一覧】

アイナ・クライト
アカデミー生徒・15歳
ルカ・フォルケン
アカデミー教官・27歳
ルヴィアン・ローゼ
医者・年齢はヒミツ☆
リッジ・クーノレハート
アカデミー教官・29歳

【PC一覧】

ケイト・ツヴァイハンダー
一般市民 16歳 男性 アカデミー生徒
レイス・カルヴンクルス
パラサイト 24歳 男性 バウンディハンター / 月狼さんのPC
カノン・クラフト
一般市民 15歳 男性 アカデミー生徒
フラッド・ブラッド
パラサイト 14歳 男性 バウンディハンター / 倉瀬まろんさんのPC
ノエル・ギルス
ミーア族 15歳 女性 アカデミー生徒 / T99さんのPC
アルメリア・ブルボン
レダ族 24歳 女性 祈祷師
フリッツ・バーミリオン
フォーリナー 25歳 男性 アカデミー教官 / T99さんのPC
アルファス・レイフォード
ミーア族 15歳 男性 アカデミー生徒 / 神楽坂 葵さんのPC
エリオ・エスパーダ
一般市民 13歳 男性 アカデミー生徒
マミコ・ヤブサメ
貴族 18歳 女 医師
ヴァイオラ・ノインツィヒ
スレイヴ・ドール 12歳 女性 ハンターギルド監察官 / TEDのPC

 フラッドさん、マミコさんは、セイラーズインの常連さん。エリオさんもNW5月号にイラスト投稿があります。


●プレイヤーコメント

 策略を巡らす腹黒いヴァイオラさん。

 今回、ちょっと和田マスター担当の「DC開発部発足」との関連を軽く疑ってみたのですが、関係なしでした。
 それでも、まあ、あちら側で起きたネタを動機に組み込んだりしたのですが。あちら側ではテムレ博士の「巨乳に改造してあげよう」という申し出を断っているものの内心気にしていて、こちらではこっそり伝説のメモリシア探し……という表裏が今回のポイント。一人ブランチリンクです。


●送ったイベントハガキの内容

■目的
 情報を集め、漁夫の利を得る機会を伺う

■動機
 存在自体は疑わしいと思いつつも、別イベントで胸が小さいことをネタにセクハラされた(1803「DC開発部発足?!」)ことを密かに気にして。

■プロット
 ハンター同士でのメモリシアの奪い合いは規範に反しますしが……それほどの貴重なメモリシアであれば、個人の財産として独占するのではなく、世界の共有財産として、然るべき機関で研究すべきだと思います。
 もっとも私、正直言って、実在するのは疑わしく思っておりますわ。最初に言い出した誰かが、テムレ・イー博士の娘御様のノレカ・フォノレケン様(1803「DC開発部発足!?」)と見間違えたのではないでしょうか。ルカ様よりもプロポーション20%増しだそうでございますし。……でも、それが実在するのなら私、どうしても欲しいですわ。

> 「ダメだ。その姿でありながらそのプロポーションでは、萌えが発生しない!」
>「いえ、あの……」
>  ヴァイオラは怯えている。
>「キミのその容姿ならば『つるぺた』か『ばいんばいん』になるべきだ! さあ、服を脱ぎたまえ。私が然るべき改造を施してあげよう! さあ! さあ!! さあ!!!」

――8月期イベント1803「DC開発部発足!?」第1回、テムレ・イー博士とヴァイオラの会話より

 ……テムレ博士に改造されるのは絶対イヤでございますから。
 関係者の話や、目撃情報を集めつつ虎視眈々と機会を伺います。ルカ様が《巨乳》のメモリシアを所持しているという確証が得られた場合には、情報をばら撒いて他の挑戦者の方々を焚き付けてルカ様にけしかけ、揉み合いの争奪戦になったところで、漁夫の利ゲットを狙いますわ。そのために捕虫網を用意いたしましたの。


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