衛星セレノスで発見された古代人の遺跡を探索していた調査隊が全滅。唯一の生存者は「魔女に殺される」という謎の言葉を残して自殺した。
この謎めいた事件はイリテュイア研究調査室が引き継ぐことになり、元エウリュノメ研究所出身の披研体という過去を持つリュー・シグマ率いるハンターたち、そしてリューの妹であるスイ・シグマらがセレノス入りした。現在は人造メモリシア研究所に所属しているスー・シータらは、遺跡中枢に秘められた機能について、ある推測を出していた。イリテュイアを巡る二つの月には、ステラマリスの二つの月と同様の、ある機能を持っており、それが失われれば歴史的な損失になるのだという。今回の調査はその裏付けを得るための調査だ。ハンターらには真実が伏せられたが、遺跡の中枢を傷つけないようにとの注意が出されている。
遺跡の探索を行う「調査隊」チームよって、最初の階層のフロアマップが発見された。他にもレダ族のものとは違った古代文字や、倉庫に無造作に転がっている水惑星(シュガー)メモリシアが発見される。全滅した先の調査隊の遺体を回収する「回収隊」チームは、全滅した先の調査隊の遺体をいくつか発見していた。遺体はどれも武器・メモリシアなどの装備品を剥ぎ取られており、「魔女」の攻撃によって腱を切られ、遺跡を迷走した後、遺跡の防御システムによって止めを刺されていることがわかった。そして遺跡内部の防御システムと戦う「先行隊」は、「魔女」が書き残したと思われる、血文字で書かれた詩のような落書きを発見する。それは、ステラマリス人が標準的に使っている文字で書かれていた。
そして、ハンターたちは「魔女」と遭遇する。メモリシアなしに風の刃を自在に操り、狂気の笑い声を上げる裸の女。圧倒的な強さを見せる「魔女」に対し、ハンターらは策を弄するものの歯が立たない。説得を試みるも相手は聞く耳を持たない。あわやという所にリュー・シグマが人造メモリシア「転」を使って颯爽と駆けつけ、人造メモリシア「妖」「超」の力でハンターたちの窮地を救う。「魔女」はリュー・シグマをエウリュノメ研究所の披研体であった頃のコードネーム
「魔女」への対策を練るため、一時撤退した調査団。先発隊が持ち帰った「魔女」の血文字の写しを見たスイ・シグマは驚愕し、恐怖に震える。そのメッセージの内容とは、エウリュノメ研究所の披研体であった頃のスイ自身が書いた文章。そして魔女の文章には、原文にあったはずの「私を殺して」という最後の一行がなかったのだ。
「12人目。装備は無し。酷いな……」
セリアス・クレイドルは手馴れた手つきで死体袋を取り出すと、遺体を回収する準備を始めた。幸い、遺跡内の氷点下近い温度のおかげで、遺体の腐敗は殆どなかった。
「この方も同じです。数え切れない程の切り傷。腱を切られて行動が糊限されていたようでございますね。致命傷は――」
ヴァイオラ・ノインツィヒが、先程破壌した防御システムを見上げた。
通路の情報の黒く焦げたような場所。そこにはレーザー発振装置があったのだ。
これまで回収した遺体から、どのような状況で調査隊が全滅したのかは察しがっいた。この遺跡の侵入者除けの防御システムは全てレーザー発振装置であったことから、この切り裂いた傷をつけたのは例の魔女と思われる。即ち、調査団は魔女と遭遇し弄られ、その後逃走するも迷走し、防御システムにより止めをさされたというところだろう。なぜならここに到るまでの道程で、防御システムの破壌痕は多数見受けられたのだから。
「例の助かった人が運が良かったっていうより、他の人達が不運だったって感じだな」
「結局死んでしまった以上、幸も不幸も関係ございませんわ。死ねば一緒」
人の生き死にに妙にシビアなヴァイオラがさらりと云った。
「お宝ーっ!」
通路の彼方から聞こえてきた声に、セリアスが、死体袋から顔をあげた。
向こうからスカートがまくれあがるのも構わずに駆けてくるのは、クラウディット・エルティーグ。そしてその後を追うように、エルセイル・クラヴォールも駆けてくる。
「お宝と聞こえたような……」
「はっきりそういった。……止めよう」
セリアスはそういうと、クラウディットの駆け抜け様にひょいと足を出した。
クラウディット、見事に足を引っ掛けて転ぶと、ごろごろと正面のT字路の壁に突っ込んだ。その上、そこの左右の防御システムはまだ健在。たちまちひっくり返っているクラウディットにレーザーが向く。
「うきゃきょあーっ」
クラウディット、尻尾を踏まれた猫のように飛び上がって逃げ戻って来た。
「こ、殺す気っ!!」
「放っておいても飛び込んだと思いますが」
冷静にヴァイオラ。頷くセリアス。
「だから無闇に突っ走なっていったろ」
肩で息をしながらエルセイルがクラウディットに云った。
「そんなことしたらお宝がな――」
クラウディット、慌てて口を塞ぐ。
だが周りの三人の視線が妙に痛い。
「犯罪者でございますね」
「……可哀想に」
ボソリとヴァイオラとセリアス。
イリテュイア研究調査室は、今回政府からの依頼で遺跡調査を行なっている。そこで盗掘なんて事をしようものなら、例え窃盗扱いの罪だとしても、簡易裁判所を飛ばしていきなり中央裁判所行きとなるだろう。
そして先に待つのは鉱山での強制労働。
「だがふたりとも調度いいところに来てくれた。彼等を外に運んでくれ」
セリアスが通路の一角を指差した。
そこには12人の遺体を載せたカート。
「なんであたしが!」
クラウディットが抗議すると、セリアスは彼女の両肩にポンと手を置きこういった。
「……可哀想に」
「……あう」
かくして、ふたりは調査隊の遺体を運ぶことになってのである。☆ ★ ☆
そこは明らかに破壊された跡が見受けられた。それも最近。恐らくは、先の調査隊の仕業であろう。
「扉の跡みたいだな」
マキシマムス・フレマスが瓦礫の散らばる通路を前に足を止めた。
目の前すぐ左の壁に大穴が開いている。
「また過激なことをやったものですね」
「工事現場の連中も調査隊に入っていたからな。遺跡の保存云々には疎かったんだろ」
ゲイル・クラフトの言葉に、マキシマムは肩をすくめて見せた。
「それに、これも理由だろうぜ」
いいながらリカルド・バウマンが壁にレーザーソードを当ててみせる。レーザーは壁に当たるやたちまち拡散してしまった。
この遺跡の壁は、どういう技術であるのか、ほぼ完壁な対レーザー加工されていた。故に扉を手っ取り早く切り開くというのはまず無理なのである。
「こうゆう技術で、対レーザー用の服とか作れなかったのかしら?」
「それが出来ているのなら、この遺跡の防御装置にレーザーは使われていませんよ」
リラ・フラウにゲイルが云った。
「で、誰が一番に入るんです?」
レイス・カルヴンクルスに問われ、ゲイルたちは顔を見合わせた。入ったとたんに防御装置の洗礼を受けるの流石にイヤだ。実際、この通路は血痕が多数見受けられるだけに。そしてそれはここから続いているのだ。
「この瓦礫でも投げてみますか?」
「意味無さそう」
リラがレイスに云う。
「じれってえな。いくぜ」
リカルドは銃を構え、中へ飛び込んだ。
防御装置はなかった。その部屋はホールのような場所だつた。半球形の空商。扉は、いま入って来た場所のほぼ書面と左右にふたつあり、そちらは開かれた状態にある。
だが、それよりも目に付いたものは、ホール内に倒れている4人の遺体。それは酷い有り様だった。五体満足な遺体がひとつもない。手足がちぎれ、ある者は胴体を両断されている。そして鵡暑、魔珠をはじめとした装備品は防具を除きなにひとつ見当たらない。
「酷え。……リラ、どうした?」
「き、気持ち悪い……」
「あ〜……少し休んでろ。レイス、頼む」
ゲイルがリラの背を押しやりながら頼んだ。レイスは肩をすくめると、リラを連れて、左の出入り口の側へと歩いていく。
「本部から回収隊に連絡してもらおう」
マキシマムが背負っていた通信機を降ろすと、本部へと連絡をいれる。
「なあゲイル、この遺跡が見つかってから、調査隊が入るまで、どの程度の期間があいたか知ってるか?」
周囲を眺めていたリカルドが、突然そんなことを聞いてきた。
「少なくとも数日はあったろ? これだけの規模だ。入り口付近を調べたあとから調査隊を繊斐したんだろうぜ。……どうした?」
「魔女ってのは、この遺跡とは全く関係ない存在らしい。見てみろ」
リカルドが何事かをメモにとりながら、ゲイルに壁を見るように促した。
そこにあるもの。それは、血で記されたメッセージ。それも、ステラマリス人が標準的に使っている文字で記された。淋しいことに耐えることと怖
いことに耐えることあなたは
どっちが楽?私は、淋しいこ
とに耐える方が楽なの……だ
から――「こいつは……」
「他にもあるぜ。気の滅入る文ばかりだ」
ブツブツいいながら、リカルドはそれらの文章をメモしていく。
「これじゃまるで、魔女ってのはただの快楽殺人者(サイコ)じゃねえか」
「なにかをきっかけにして殺人に興じだす奴もいるからな。……これも、その類じゃないのか? カリオンの班が、フロアマップを見つけたらしい。一度戻るか?」
マキシマムがふたりに聞くと、視線をリラの方に向ける。
「……その方がよさそうだな」
リカルドはゲイルと顔を見合わせると、肩をすくめてみせた。
いつになくクールなヴァイオラ。アクションでは人間らしく振舞うように書いたのですが、スレイヴドール同士の会話で地が出たのかも知れません。
前作「約束の地の探索者」で和田マスターが担当したLCブランチの直接的な続編になるようです。
のっけから、人外の特殊能力を使って戦うNPC vs NPCのバトル、次元が違いすぎて手出しできないPCたち……という、典型的なNPC主導シナリオで、しかも前作のLCブランチのローカルネタがバリバリなので、非常に好みが分かれる内容だろうと思います。
実はまあ、ちょっと……。前作の時はLCブランチで活躍できなかったと言う人から愚痴ばかりをうんざりする程聞かされたり、かと思えば別の何人もの人からも「和田マスター最高!」という評価を聞かされたりして、こういう両極端な反応のあるどんなリアクションを書くマスターなのかと怖い物見たさでドキドキしつつ参加してみたってのもあるのですが。個人的には(少々不安に怯えつつも)楽しめそうな内容ではあります。
(例えばCardWirthのような)コンピューターゲームでこういうシナリオだと、本当にPCの付け入る隙がなくて滅入ったりするのですが(笑)、紙と鉛筆でプレイするPBMではそうはなりません。和田マスターはNPCのドラマに積極的に介入するアクションに関しては(内容が良ければ)優先して採用するマスターだと聞いているので、その辺は安心しています。
魔女/スイの「スレイヴ・ドールは嫌い」「スプラッタ趣味」って辺りが、ヴァイオラと相性良さそうなので、その辺で絡めたら面白いかもなあと思っていたりします。
なお、抜粋箇所では、どう考えてもマスターの書き間違い(クラウディットさんの名前が途中から違っている)があったので、抜粋箇所では訂正しておきました。PCの愛称であった可能性もありますが、明示されていないので……。
■目的
犠牲者となった第一次調査隊の検死と、遺体の埋葬。
■動機
ハンターギルドから派遣された監察官として事務的な仕事。
調査員の全滅がハンター登録者の不手際によるものなら、責任問題を追及せねばならないので。
■プロット
第一次調査隊の遺体を捜索し、遺体の状況を詳しく調べます。死因は何か(主にスマイス氏の証言の裏づけ)、敵の攻撃手段について考察、調査員に作戦ミスなどの手落ちはなかったかを確認し、報告書作成の資料をまとめます。調査結果は探索終了後に報告書にまとめ、暗号化メールでギルド本部に提出します。
検証が済んだ後は遺体回収を試みますが、それが不可能なら、その場でハンターの儀礼に従い、埋葬します。密かな趣味がスプラッタ映画の鑑賞で、人間の無残な死体を見ても何の感情も沸き起こらないヴァイオラのこと、内心は「あうー、ぐちょぐちょ」などと思いつつも、表向きは神妙な顔を装い、小さな身体でぴっと背筋を伸ばして敬礼、遺体を手厚く葬ります。弔辞を述べるために、犠牲者の生前の人柄や家族についても事前に調べていきますし、女性の遺体は顔を隠してあげる、などの配慮は欠かしません。こんな危険な場所で、うかつに非人間性をあらわにすれば、仲間の反感を買ったり、使い捨ての戦闘人形扱いされたりしますからね。
ただ、同胞であるスレイヴドールの死には感情移入して、ブルーになります。
それにそもそも、こんな遺跡の中で古代から生き延びている「魔女」というのも人間ではないでしょうし、(スレイヴドールにせよ、人造人間にせよ、超越種にせよ)それと戦うのも気が進みません。……戦闘状況になれば、互いに兵器として全力を尽くすのみでございますが。
リアクション到着後、みかかさん(セリアスさんのプレイヤー)から、前作LCブランチのリアクションをHTML化したものを頂きました。拾い読みした程度の解釈ですが、今回のリアクションだけではわかりにくい点についての覚書です。
旧エウリュノメ研究所の「IFC計画」で人造メモリシアの材料にされるために生み出され、育てられた改造人間たち。全員が異能者アイシャ・フォーサイスのクローン。
和田マスター的には人造人間ではなく改造人間扱い。こだわりがあるらしい。(確かに両者の違いは重要である。人間が人間として扱われない哀しみと、人間とは本質を異にする者が人間として振舞わなければならない苦悩は別種のものである)
披研体たちを総称するときは「子供たち」という呼び名を使うのが一般的(前作から長い月日が流れているので、この呼び名は相応しくないかも?)。
「子供たち」人数は約170人。6人を残して大半は前作の10ターンまでに死亡。数人の生き残りがイリテュイアの「人造メモリシア研究所」「イリテュイア研究調査室」に所属している(プレイングマニュアル参照)。
スー・シータはLC2のメインヒロイン。PCたちの活躍によって生きる活力を取り戻した。
スイ・シグマはLC1の最終回で、チー・サイ(07-Ξ)によって暴走させられてハンターたちと戦った、LCブランチのラスボス的存在の一人。
数字(中国語/北京語読み、00〜10)+ギリシャ文字(α〜ω、24通り)。
数字は能力の属性を表し、00〜10(リン、イー、アル、サン、スー、ウー、リュー、チー、パー?、チュー?、スイ)の11タイプ、各タイプごとに複数人が存在。
00〜06は、それぞれ23〜24人ずつ存在。個人を指して名前で呼ぶときはギリシャ文字名で略すのが前作リア上での慣習。今回のリアクション上でリュー・シグマが「リュー」と呼ばれて「シグマだ」と訂正したのはそのため。
07、08、09、10タイプは特殊型で、人数が少ない。ちゃんと育ったのは各一人ずつ。名前で呼ぶときは数字名(中国語読み)で略すのが慣習。
リュー(06)は水使い、「セレノスの魔女」アル(02)は風使い。今回ゲストのスー(04)は雷使い。余談だが、奇数型はすべて男性、偶数型すべては女性。
スイ・シグマはの能力は、怒りの衝動によって精神装甲(巨大ロボ?)を生み出し、暴走するというもの。発動すると制御不能で、そのため危険物扱いを受けていたらしい。
彼らは、他のメモリシアの効果対象や威力などを変化させる「人造メモリシア」を制限なしに使える。
人間らしい扱いを受けてこなかったため、人間不信気味で無償の愛に飢えている。ほんの僅かなエゴにも過剰に反応してしまう傾向あり。
心を読むメモリシアを使いこなすので、嘘も通用しない。
リンファ・ユンは兵器開発局の部長となり、スイ・シグマの名義上の保護者となっている。
和田マスターは多分にこのサイトを見ているらしいのですが、第2回リアクション本文内に、上記記事内にある事実誤認についての指摘と取れる会話がありました。詳しくは「セレノスの魔女」第2回の、ヴァイオラ登場箇所抜粋のシーンを参照してください。(2002/07/20追記)