先遣隊を皆殺しにした殺人鬼「セレノスの魔女」の正体を、十数年前に起こった旧エウリュノメ研究所で起きた事件に関係している人物ではないかと考えるハンターたちは、旧エウリュノメ関係者の生き残りであるスー・シータから話を聞くことにした。問われるままに情報を提供するシータだが、彼女は魔女が旧エウリュノメ研究所の関係者であるとは考えてはいなかった。シータは、魔女の一連の言動を、ハンターらの動揺を誘い精神的に優位な立場に立つためのハッタリに過ぎないのではないかという推測を述べる。
一方、遺跡内で調査を続けるチームは、遺跡の防衛システム「銀色のマネキン」を撃退し、遺跡の制御室へと到達していた。その部屋には侵入したクリーチャーと古代人が争った形跡があり、クリーチャーの攻撃に傷ついた古代人が、最後の死力を振り絞ってレバーを引き、遺跡の防衛システムを作動させたことが推測された。ハンターたちはレバーを戻し、遺跡の防衛システムを解除する。
遺跡内の別のグループは、魔女と交戦していた。死闘の末に魔女を倒したハンターたちは、魔女の正体がスレイヴ・ドールであることを知る。シグマらの知り合いだと名乗ったのは狂言であったことを楽しげに告白する魔女。ハンターらは更なる情報を魔女から引き出そうとするものの、魔女は、相棒を殺されて復讐の炎を燃やすMM社のスパイ、アレリアによって処刑されてしまう。
ところが、それとは別のグループ(A-PART側)も、同時期に二人の魔女と遭遇していた。どうやら「セレノスの魔女」は大勢いるようなのだ……。
地上から対魔女用の鎧が屈き、調査団のハンターたちは装備を検めると、再び遺跡内へ調査に向かった。
そして各調査班の支援を行う本部では、変わらずスイ・シグマが常駐している。
その本部でスイのやっていることといえば、やっぱり通信機の微調整。
「むう……どうして通信機器の惟能はちっともよくなんないかなあ。いっそのこと、この遺跡で見つかって、技術が飛躍的に進歩でもしてくれるとありがたいんだけれどなあ」
聞こえてくる雑音に口をへの字に曲げると、再び複数のダイヤルをいじる。
……なんだか限りなく不毛な作業のような気がしてきた。
「スイお姉ちゃん!」
名前を呼ばれ、抱えていた頭を上げると、目の前にリラ・フラウが立っていた。
「なんですか? リラさん」
「一緒に遺跡の中へいきましょう!」
「え? あ、私、パックアップですから」
スイが断る。だがリラはそう簡単には引き下がらない。
「例のメッセージがあるところまででも行きましようよ」
リラの言葉に、スイはあからさまに顔をしかめる。
正直な気持ち、見たいと思わない。
「いや、ダメですよ。無闇にここを離れるわけにはいきません!」
「そうだよ! キミ、デリカシー無さすぎ! 少しはスイの気持ちも考えなよ!」
白衣を着込み、看護婦の格好をしているフィア・ランドールがリラに詰め寄った。
ナースキャップがちょっとずれているあたり、着こなしがイマイチだ。
「でも、現実から逃げてちゃダメだよ!」
いや、別に逃げているとかいうのとは違うんですが……。
スイは困った。本来なら仲裁するところだが、下手に仲裁をすると、なんだか遺跡内へ行くことになりそうである。
「止めるか」
その騒ぎよりやや離れたところで、一本部の守備、特にスイの護衛を買って出ているエブリース・プライアードが云った。
「そうだね」
エブリースの言棄に、ブルー・ウィンドが同意する。彼もまたエブリースと同様、本部の護衛、特にスイの護衛を行なっている。
ふたりは呆れつつも、もはや掴みかからんばかりに熱くなっているリラとフィアの元へいくと、とりあえずふたりを引き剥がした。
「ちょっ、なにすんのよー。放して!」
「はいはい、わかったわかった。だが組織には役割分担ってものがあるんだよ」
エブリースがリラを羽交い絞めにしたまま答えた。
「ちょっと、どうしてボクまで羽交い絞めにされるの!?」
「喧嘩両成敗っていうだろ」
フィアにはブルーが答える。
この光景にスイは引きつった笑顔を浮かべていた。
まったく、どうしたものやら……。
「困ったものでございますわねぇ」
遠目にその騒ぎを跳めていたヴァイオラ・ノインツィヒがひとりごちる。
これでは何の為に本部防衛案を練り上げ、訓練を行い、シフトを組んだのか……。
「平和でなによりというものじゃない」
近くから聞こえてきた声にヴァイオラが振り向くと、ほんの数ミュール離れたところに、白髪紅眼の少女が立っていた。
左目の下の『04-θ』の刻印が、その白い肌に異様に映えている。
「こんにちは。なんだか物騒な装備ね」
白髪の少女、シータはヴァイオラの見て、素直な感想を述べた。
彼女はエプロンドレスにガトリングガンを二挺装備という、一種異様な格好だ。
「本部防衛のために、十分な装備を持ってあたることは当然のことでございますわ」
なんだか非難でもされているようで、ヴァイオラは少しばかり面白くない。
「それもそうね。ところで、調査隊はもう遺跡内に入ったのかしら?」
「ええ。既に調査は再開されておりますわ」
「のんびりしすぎたみたいね。まだいるかしら。私、ここに話をしに来たんだけれど」
そういってシータは、メッセージの書かれたメモをヴァイオラに見せた。
「あの、失礼でございますが、どちら様でございましょう?」
「あ、ごめんなさい。名乗ってなかったわね。シータよ。スー・シータ」
そしてシータは、いまだにスイが通信機と格闘している本部へと案内された。
「忙しそうね」
「あ、シータお姉ちゃん、こんに……って、どうしてまだセレノスにいるんですか?」
驚くスイに、シータは顔をしかめた。
「随分な言い種ねえ。こないだ『転』を持ってきてあげたのに」
「だ、だってすぐ帰ったのかと思って……」
「んふふふ。オミクロンに仕事を押し付けてきたのよ。いっつもこういう好機には、オミクロンが出張と称して出かけるんだもの。たまにはこうやって出し抜かないとね。きっと今頃、書類の山に坤いてるに違いないわ」
なんだかシータは得意気だ。
「……オミクロンお姉ちゃんが現実逃避して、仕事をほっぽらかしたらどうするの?」
スイが恐ろしい想橡をする。
「大丈夫よ。その辺の責任感はあるから」
「それで、なんの用でここに?」
「話をしにきたのよ。ここのみんなが聞きたがってることをね」
シータが答えると、スイがあからさまにうろたえた。
「しょうがないでしょ。シグマは喋んないし、あなたは変なトラウマ起こしてみんなに心配かけてるし。なんだか私のところに話を聞きにくるのが多いから、こうして謡に来たのよ。まったく。あなたのトラウマはともかく、シグマの対人恐怖症にも困ったものよね。仕事のときには結構喋ってるクセに、どうして根本の部分が治んないのかしら?」
腕組みをしてシータが怒ったように云った。なんだか紅い瞳が益々赤みを増しているような気さえする。
「で、ビカンカなるお姉さんはどこ?」
「こちらでございますわ。どうぞ」
確かビアンカ・サフェイセスは、簡易宿舎の食堂で待機していたはずだ。
果たして、ビアンカは食堂にいた。他にはセラフ・ヴィクトリアとカリオン・ハークスが待機している。
「ビアンカさん?私に話っていうのはなにかしら? ……だいたい察しはつくけど」
「あ、し、シータ様。連絡を戴ければ、わたくしから出向きましたのに」
「一昨日、あなたのほかの人にも呼び出されて話をしたのよ。それが続くようだと私も面倒だから、こうして来たの。なんだか憶測が横行して妙なことになってるみたいだし」
そういってシータはビアンカの差し向かいの席に腰掛けた。
「それで、話はなにかしら?」
「あ、私、お茶を淹れて参ります」
ヴァイオラが簡易厨房へと歩いていく。
「では、お聞きします。リュー様とスイ様は魔女と過去に関わりがあるんですね。そして『風』や『水を扱う特別な力を持つ――」』 不意にシータが手を挙げ、ビアンカを制する。ビアンカは話を止めると、怪語な面持ちでシータを見つめた。
「話の途中でなんだけど、訂正させてもらっていいかしら? 魔女はどうだか知らないけど、シグマが『水』を使う特殊能力があるっていうのは間違いよ。ただ、それらの系統の魔珠 を扱うエキスパートではあるけど。ちなみに、私は電撃系のエキスパート。研究所で徹底的に訓練したのよ。それこそ嫌になるほどね。はい、続きをどうぞ」
シータがビアンカを促す。だがいまのシータの話で、どうも想像していたこととかけ離れていきそうな気配だ。
「その、それでは単刀直入にお伺いします。魔女の弱点はなんですか?」
「そんなこと私に聞かれてもねえ。見たこともないのに、どうして答えられると思ったのよ。『嵐の女王』って名乗ったから?」
テーブルに肘をついて、手に顎をのせるとシータはビアンカを見つめた。
「一昨日来た人にもいったことだけど、その魔女という者にっいて、客観的に考えてはみたの? 魔女が勝手に名乗った『嵐の女王』という言葉に振り回されていない?」
「どういうことでございますの?」
興味がそそられたのか、紅茶を運んできたヴァイオラが尋ねた。
「何故、魔女は裸だったのか? 何故、裸で現われる必要があったのか? これだけでも結構な情報が得られるハズよ。ま、推測の域をでないといわれればそれまでだけど」
セラフとカリオンが顔を見合わせた。
「まだわからない? はっきり云うわよ。魔女、魔珠を使っているわよ。裸に見せかけていたのは、魔珠なくして魔法を扱えると思い込ませるためのパフォーマンス。それによって、あなたたちに対して精神的に有利に立つためにね。ついでにいっとくけど、私たちは露出狂なんかじゃないわよ。なんだか魔女と同じように思われてるみたいだけど」
「ですが、シータ様たちは、『嵐の女王』とは関わりがあるのでしょう?」
セラフがシータに尋ねた。
「なるほど、それも知りたいのね。ついでだものね。いいわよ。とりあえず聞きたいことを羅列して。語せることは話すから」
云われ、カリオンとセラフが聞きたいことをいった。『嵐の女王』のことはもとより、スイの両親、目の下の刻印、遺跡の落書き、兵器開発局局長リンファとの関係など。
そしてセラフが一枚の写真を差し出した。それは、企業スパイであるアレリア・パストーニュの持っていた写真のコピー。
「また古い写真を持ってきたわね。……シグマがまだ髪を染める前で、リンファもいるから……シグマが1、2歳の頃の写真ね」
「は?」
セラフが聞の抜けた声をあげた。
写真の少女達は、どうみても十代後半か二十歳前後に見える。
「ま、まとめて話すわ。私たちには両親はいないわ。エウリュノメ研究所で、対クリーチャーを目的として生み出された兵士のテスト体。クローンよ。それに加え、義体のテストベッド兼ねていたわ。現在いるサイボーグのテストも行っていたらしいわね。最近のサイボーグの増え方を考えると。で、リンファはエウリュノメ研究所の副所長。これで私たちとの関係はわかるわよね。現在は法的には養母ってことになっているわ」
シータが紅茶に口をつける。
「あ、美味しい。ありがとう。ホテルのよりずっと美味しいわ」
「どういたしまして」
「さてと、それじゃ『嵐の女王』ね。『00』 型。氷系魔珠のエキスパート。コードネームは『氷結の姫君』。『01』 型。格闘術、刀剣術のエキスパート。コードネームは『破裂騎士』。『02』 型。風系魔珠のエキスパート。コードネームは『嵐の女王』。『03』 型。炎系魔珠のエキスパート。コードネームは『火闇魔人』。『04』 型。雷系魔珠のエキスパート。コードネームは『雷帝』。『05』 型。小火器、重火器のエキスパート。コードネームは『兇機士』。『06』 型。水系魔珠のエキスパート。コードネームは『飛沫の美女』。
ということで、これが私たちを示す刻印。いまも生きているのは6人。兵器開発局のリン・デルタと、まだステラマリスにいるサン・ロー。あとは私とスー・オミクロン。そしてシグマとスイね。あ、『07』 から『10』 は廃棄処分。スイはリンファに助けられたのよ。なんだかリンファが色々工作して、当時の所長だったダリル・ヴィンセントを出し抜いたみたい。もっとも、そのダリルも、もう死んじゃってるけど。
この間のリンファ殺人未遂事件の時も思ったんだけれど、研究所のことをいまさらほじくり返しているのがいるのよね。なにが目的かわからないけど。まあ研究所自体がEP社に対して謀反を起したことになってるから、スキャンダルにもならないんだけれどね。
それと落書きだけれど、あれは私たちの言ってた言葉よ。スイが感化されて落書きしてたみたいね。こんなところでいいかしら? あ、そうそう、どういうわけだか、私たち歳の取り方が普通と違うみたいなのよ。実年齢と外見が一致したあたりから、普通に老けるみたいね。スイは7、8歳くらいの姿で生み出されて、十歳くらいから急に育ったもの。……どうしてだかはわからないわよ。私も生み出された側の人間だし、その当時はまだリンファも研究所に務めていなかったから。当時の研究員やなんかは、クリーチャー逃亡事件の時に殺されちゃってるから」
「やたらと死人が多いみたいだが……」
カリオンがおずおずと訊いた。
「ダリルが面白がって、クリーチャーなんか生け捕りにして実験するからよ。嘘じゃないわよ。クリーチャー捕縛について知りたかったら、アカデミーで聞いてみるといいわ。魔獣縛猟隊の隊長だったマリオン・ジェンキンスが教官してるハズだから」
「それを信じろということですか?」
「信じろなんていわないわよ。信じるも信じないも、あなたたちの自由だもの」
そういうとシータは、幸せそうに紅茶を口に含む。
「こんな美味しい紅茶を毎日飲めるひとは幸せね」
シータににっこりと微笑まれ、ヴァイオラもにこやかにペコリとお辞儀をした。
ヴァイオラが登場しているのは、前作「約束の地の探索者」LCブランチの設定を解説するシーン。和田マスターはここのサイトを見ているらしく、前回のリア抜粋末尾に自分なりに理解したLCブランチの設定を紹介したのですが、その間違いを指摘する内容にもなっています。
近くの宙港から宇宙船をハイジャックされて落とされたらたまらない……と思い(流石にそんな不謹慎なネタはやらないだろうと思いつつも)、大勢のPCが攻めに出払っている間に本拠地を狙われる展開はPBMではありがちなので、別紙つきのアクションで本部防衛案を提出しました。結局の所は杞憂で、本部の襲撃はなく、魔女とは気が合わなかったようです。
■目的
調査団本部が襲撃された際の対策を立てる
■動機
私が「魔女」の立場なら、迷わず後方支援を担当する本部を真っ先に叩きますわ。魔女様とは、気が合いそうですの。
■プロット
相手は遺跡内部のガーディアンではなく、ある程度の技術と組織力を持った人間でございます。治安維持局の使う、テロリスト相手の防衛マニュアルなどを参考にして警備を固め、私もガトリングガン二丁を携帯して本部の警備には当たりますが、最悪、宙港から飛び立つシャトルがハイジャックされて、ここに落とされでにすれば御仕舞いでございます。本部が襲撃されてその機能を失えば、魔女にとっては、命令伝達系統を失って遺跡内で右往左往する各班を各個撃破するのは容易なことでございましょう。
本部が全滅した際に備え、非常用の本部を別箇所に配置するだとか、本部との交信が途絶えた際の各班ごとの命令系統や脱出経路はきっちり決めておきます。出発前に簡単な演習を行っておくことも強固に主張します。