かつて第五都市建設候補地であったシルバスの森の北側付近に出現し、レーザーソードを振るってハンターたちを次々と殺害しているひよこペンギン……「シア」を名乗る赤いラピピを討伐するため、ハンターズギルドよりハンターたちが派遣された。
まず、クロニスに情報収集に向かったハンターたちは、かつてレシア・ドートに利用され裏切られたアナクロニスティック団体『グリューン』を率いていた女性、シリウナの協力を得る。シリウナの情報では、今回の事件にレダ族やミーア族が関わっている様子はないと言う。
一方、シルバスの森でシアと遭遇したハンターたちは、シアの説得を試みるものの、ステラマリス人を排除すべき侵略者であると考えるシアは全く聞く耳を持たない。次々と倒されるハンターたちであるが、次から次へと現れるハンターたちに、流石のシアも疲れを見せる。
ラピピの正体について、動物型のスレイヴドールや新種のデジタルクリーチャーではないかと推測する者は多かったが、シアは紛れもないイリテュイアの現住生物であるらしい。シアを密かに追跡したハンターたちは、シアが謎の男と会話しているのを盗み聞きする。慇懃無礼な態度の謎の男の言葉によれば、シアは「加護」を受けた「守護者」なる存在であるらしい。
そして、新たに「加護」を受けた、三匹の黒いラピピが帝都攻略へと向かう。帝都の人間を一網打尽にできる、即効性の毒ガスを装備して……。
第五都市ディスカバリーに設けられた、ハンター司令部。本来であればハンターズギルドが統括する部門であるが、現在は統括局の管理下に置かれ、第五都市の責任者リトス・アナンケーがその運営を兼任してる。
これは第五都市に関わる一連のテロ活動が鎮静化するまでの暫定的な処置である。そして、そのテロ活動に収拾がつくと、第五都市は正式な都市として運用されることとなる。
現在ディスカバリーはシア討伐の為、グラディア大海クロニス沖に停船し、シアが出現するという森を深索する準備を整えていた。○
「リトス司令。今、森に入った偵察隊が全滅したと連絡が入りました」
シア討伐の作戦会議の中、慌ただしく部屋に入室してきた職員がリトスに報告をした。その報告は会議室に居るハンターたちのを同様させるに十分な報告である。
「10人ものハンターが全滅とはな……。やはりただ者ではないということか」
リトスはより深刻な顔つきになり、出す言葉を失った。
「……面白れえじゃないか。たたがラピピごときに人間様がここまでコケにされるとはよ……。しかし、赤いラピピを一人の戦士として認めるしかねえな。で、作戦はどうするよ?」
ジルコン・アークデルタが声高く笑い声を発した。鋭い目をぎらつかせ、シアとの戦いに期待感を抱く。
「相手の正体は依然不明です。作戦の組みようもありません。まずはその正体を探らないと……」
フィー・アンタレスが進言する。
「だからよ。それを調べに行った隊が全滅したんだろ」
ジルコンが茶化すように言葉を吐き捨てる。
「わかっていますよ……。ただ、以前シアと戦って生き残ったハンターの証言ではただでさえすばしっこいラピピが、更に素早く攻撃を当てることすらできなかったと聞いています。何か作戦のお役に立てて下さい」
「その話は私も聞いている。シアはその素早い動きを使って、隙を誘い、攻撃を仕掛けてくるそうだ」
「あのう。私も発言してもよろしいでしょうか? 私なりに調査した事がございますので、報告させて頂きます」
ヴァイオラ・ノインツィヒが立ち上がり、独自に調査したシアに関する情報を報告する。
「シアによって殺害されましたハンターの検死と状況検分に立ち会って参りました。死亡したハンターに共通していますのは、致死外傷が背中側に集中している傾向がございます。傷は焼けた切り傷。これは元の情報にある、レーザーソードのものでございまして、全てこの傷が致命傷となっておりました。他にはひっかき傷と、多分くちばしだと思われるのでございますが、つつかれた様な傷跡が無数に確認できましたわ。……これは私の予想でございますが、シアは動物型のスレイヴ・ドールではないかと考えますわ。そしてシアの背後には、レシア・ドートが関わっているのではないかと考えますわ」
ヴァイオラは調査結果をまとめた資料をハンターたちに配布し、参考にとしてもらうように薦めた。
「……とにかく相手をなめてかかっちゃいけないってことか。なんか教訓だね。ところで、このハンター同士の連携とパーティ同士の連絡網を強化するのが望ましいって何? 今までとは違うことをするのかい?」
ティタ・セウテースがヴァイオラから受け取った資料に記載された対策案を疑問に感じる。
「はい。基本的にはこれまで通りでございますわ。でも、パーティに何かあった場合、別のパーティが直ぐに駆け付けられるようなシステムがありましたら安全と思いまして、まとめてみましたわ」
「……そうね。ハンターってどこか身勝手な行動をする人が多いものね。ハンターランクとか報酬に関わってくるから仕方ないのかもしれないけど。特に今回の場合は、こういうの望ましくないわね」
プテルナ・ケイルはヴァイオラの考えを理解し、賛同する。それと同時に壁の隅に目立たないように立ち、資料に目を通すフェイヴンを見つめた。
「……ん!? 何だいプテルナ。俺の美貌に釘付けか?」
プテルナの視線に気づいたフェイヴンが言葉を発する。
「……そうね。あなたは凄腕のハンターだから、真っ先に単独行動をするんじゃないかと心配してるのよ。……でも私がもっと気になるのは、あなたの怪しげな魅力よ。前の第五都市居住権審査でのあなたの活躍……。あなたほど腕のたつハンターが今まで無名で、しかも5thランクだなんて信じられない。1stランクのトップクラスでも通用するわ」
プテルナは思い切って疑間を投げかけた。しかし、フェイヴンはなんら変わりなく、平然と答えを返してくる。
「仕方ないだろ。現実はこうなんだからさ。でもここまで強くなるにはかなりの努カをしたぜ。まあ、群れたい奴は群れて行動してくれ。俺は自分のやりたいように動く。それがハンターだろ」
フェイヴンは会議室を静かに出ていった。
「……まあ、ハンターは少人数で各自の判断で行動するのが、制約が少なくて良いという利点があるが、どうも今回はそうは行かないらしい、強糊はできないが、各自連絡を密に行動をとって欲しい。……では解散」
リトスは赤いラピピに対するハンターたちの行動に不安を感じながらも、会議を閉会した。森に入る予定時刻は直ぐそこまで迫っている。
(中略)
レダ族の村クロニスより東部に場所に、樹海シルバスの森の末端がある。この森の入り口付近から北側に広がる一角が旧第五都市建設候補地で、最近この付近一一帯に外見が赤いラピピ、通称赤い流星のシアと名乗るラピピが現れ、訪れたハンターを無差別に襲撃していた。場所は何の変哲もない、少々起伏の激しい森林地帯である。
「おい、この辺りだよな。シアが目撃される場所って?」
インドラ・スコルピオが立ち止まり、額の汗を拭いながら誰となく質問する。
「そうですねえ。会議の時の情報ではこの辺りとなってます。ヴァイオラさんの資料にもハッキリとこの付近と書かれてますよ。ほら、ご丁寧にも地図付ですよ」
コハク・タチバナは資料をわざわざ指さして見せる。
「そうか。じゃあ、少し休憩でもするか?」
「おいおい。やる気ねえなあ……。シアは捜さないのか?」
エリア・オーウェンスが地べたに座り込んだインドラを呆れた表情で見下ろす。
「無駄に動いたって始まらないだろ、相手が無差別にハンターを襲ってくるならどこにいても同じさ」
「それ一理ありますねえ。ではボクも……」
インドラに続き、コハクも地面に座り込んだ。
エリアは二人の取った行動に返す言葉を失い、呆然と立ちっくした。
「待つってえのは、オレの性に合わない。オレは先に進むぜ。適当に暴れてりゃ、向こうから現れるさ」
ジルコンは単独で森の奥に進んでいった。
「あ〜ん、待って下さいジルコンさ〜ん。ピーアも一緒に行きま〜す」
「ワタシも行くわ。待っていたら得られる物も得られないわ。……じゃあね」
リーンピア・オランヴォイスがジルコンの後を追った。それに続くようにして、ソニア・アルフォートも姿を消す。
「……行っちゃいましたねえ」
「うむ。ハンター同士の連携を強化するって案を守っちゃいないな」
「インドラが最初に行動を乱したんだろ!」
インドラはジルコンらが消えた方角を見ながら呟いたが、エリアがインドラの言葉を否定した。
「でも……」
「俺たちが……」
「当たりですねえ」
エリアたち三人は草むらにただならぬ気配を感じ、それぞれの武器を持ち身構えた。
「招かざれぬ者。これ以上のイリテュイアヘの暴挙は許さない。始末する……」
草むらから体長60ミュール程の赤いラピピがシア現れた。シアは取り出したレーザーソードの柄から光の刃を出現させ、目にもとまらぬ速度で襲ってきた。
「うわ!? 速いぞこいつ」
エリアは間一髪の所でシアの攻撃を避ける。しかし、あまりに突然の攻撃に、大きく姿勢を崩し、倒れ込んだ。
「以前人間に憎しみを抱いたクリーチャーと会ったが、あんたもそのたぐいか?」
インドラがエリアを守るようにシアとの間に入り、シアに語りかける。
起きあがったエリアもシアに言葉を投げた。
「そう、あの声明文と同じことを喋っていたよ。だけど奴は殺しを踏み止まってくれた。それだけにおまえには怒りを感じる……」
「ふふっ。甘いなそのクリーチャー。イリテュイアを食い潰す外敵を見逃すとは……。私はそんな甘さなど持ってはいないぞ」
シアは丸い黒の瞳を鋭く輝かせ、意志の強さを示すと、攻撃態勢にはいる。
「ま、待て。あんたが俺たちハンターを殺しても、結局は別のハンターがあんたを退治しに来るだけだ。少し時間をくれ。この付近の探索や開発をしないように上に頼んでみる」
インドラはシアの攻撃を受け流し、ながら語るが、シアの心を動かすには至らない。
「時間稼ぎか? 都合がいいな言葉だ。私が望むものは、傲慢な考えをするおまえたち人間への粛清だ。そしてこの星から立ち去れ」
「人間に限らず、生命全体のそれぞれの生涯は、それ自身のものであって、ある時は他を巻き込む。だからこそ同じ生命を持つ同士が殺し合うなんて、傲慢過ぎで馬鹿げているじゃないか」
エリアはハンターとして自分の存在をも否定しかねない考えを露わにした。
「そうかもしれない。しかし傲慢にもなろう。おまえたちは古里の星を殺した種族なのだからな。しかし、このイリテュイアはそうはさせない。私にはこの星という大きな生命を守ってみせる。そうすれは、自然は恩恵を与え、命は巡ることができるのだ」
シアはエリアとインドラを斬りつけた。素早い攻撃に反応できなかった二人は、その場に崩れ落ちた。
「……なぜ人は何かを壊すことでしか生きられないのでしょう。なぜそうまでして生きたいのでしょう……。キミの行為は正しいのだと思うのです。ですが、キミの怒りがわからないのです。キミと話をしてみたい。キミならボクを殺してくれるかもしれないから」
コハクは悲しそうな眼でシアに訴えた。
「弱い者は強い者の糧となるのが心理。しかしそのバランスが崩れれば、自然は崩壊する。死を望む弱き者。望み通り殺してやろう」
シアはレーザーソードを振り上げた。しかし、剣は振り下ろされることはなかった。
「む!? 助けを呼ぶ声が」
シアは何かに反応し、突然走り出し、森に消えた。シアが消えた方角はジルコンたちが向かった方角であった。○
「この保護したラピピさんが居れば、きっとシアさんが駆け付けて来ます。さあラピピさんシアさんを呼んで下さい。皆さんでピーアのお友達になりましょうね」
リーンピアは偶然捕まえたラピピを人質代わりにシアを誘き出そうと考えた。
首をロープで縛られたラピピは苦しそうにしながら、リーンピアに引きずられている。
「そんな卑怯なマネをしなくとも、向こうから現れる。いい加減、うるせえから放してやりな」
「シアが本物のラピピとは限らないわ。誰かの操る新種のデジタルクリーチャーとか、手の込んだ光学迷彩とも考えられるわよね」
ソニアはラピピの声に耳を塞ぎながら、リーンピアに言う。
「え〜っ。でもせっかくピーアと伸良くなれたのに……。それにこの鳴き声、可愛い囀りじゃないですか」
ジルコンとソニアは苦しそうにするラピピを見て、友好的な関係を結べていないことは明らかであると理解したが、それ以上は何も口に出さなかった。
「仲間への仕打ち、許せんな」
赤い影がリーンピアの横をかすめた。ラピピを引きずるロープが切れ、ラピピが赤い影に奪われる。
「あっ、あなたがシアさんですか? ピーア、そのラピピさんを人質、じゃなくて。ラピピさんとお友達になってあなたが来るのを待っていたんです。きっと解り合えます。お話しあって仲良くなれる道を探しましょう」
リーンピアは紫の瞳をうるうるさせながら悲しげに語りかけた。
「そんな見え透いた嘘が通じる相手じゃねえよ。邪魔だ、下がってな」
ジルコンはリーンピアを後ろに下げると、二本の剣を抜き、直ぐに攻撃に移る。
シアはラピピを逃がすと、ジルコンの豪快な剣を簡単に避ける。勢い余った剣が地面を抉った。
「力だけではあるようだが、それだけでは私の相手にならないな」
シアはジルコンの後ろに周り込みレーザーソードを振りかぶった。
「そう簡単にはやらせないわ」
ソニアがジルコンの背後に回ったシアに銃を発砲する。
シアはジルコンヘの攻撃を止め、間合いを取った。
「どうやらオレ一人では太刀打ちできる相手ではなさそうだな。悔しいが今みたいに援護を頼むぜ」
ジルコンはソニアに眼で合図を送った。
「あ〜ん。ピーアもお手伝いします〜」
リーンピアは火炎のメモリシアから炎を発生させてシアを攻撃したが、シアには当たらない。外れた炎が草木を焼く。
「森を燃やすな。動物たちが住む場所を破壊するな」
シアは攻撃目標をリーンピアに変え、襲いかかった。レーザーソードの刃がリーンピアに迫る。
「ぐふっ……」
ジルコンはリーンピアを突き飛ばし、変わりに自らがシアの剣の餌食になった。腹部を切られたジルコンは、蹌踉めきながらも、シアを取り押さえる。
「……おまえら今のうちに逃げろ。こいつはまるでレベルが違う。殺されるぞ……」
ジルコンの腕の中でシアはジタバタと藻掻いている。
「ハ〜イ。ピーア逃げま〜す。頑張って押さえておいてね。……ほら、ジルコンさんがああいってますし、逃げましょうソニアさん」
「えっ本当!? 本当にいいのかしら……」
リーンピアはソニアの手を引き走り出した。
「仲間に見捨てられるとは哀れな男だ……。に、しても今日はやけに多くのハンターが入り込んだようだな。私だけでは処理しきれないな」
シアは気を失ったジルコンの腕の中から抜け出すと、森の奥に目を向けた。傍らに落ちたレーザーソードを拾い、森の中へ戻って行った。
ジルコンさんと言えば、PC番号0001番の、レベルランキングがぶっちぎり一位の方。インドラさんはNW6月号のセイラーズインに投稿イラストがあります。ソニアさんはアクションシナリオやイベントシナリオなどでよくご一緒している方ですね。
リーンピアさんのプレイヤーが誰かは見当がついているのですが、プレイヤーの方のサイトを拝見する限り、どうやら非公開で参加したい様子なので黙っておきます。
ヴァイオラはScene.1に登場して、検死結果の報告や、作戦の立案などを行っています。……それにしても検死アクションの多いヴァイオラ、すっかりハンターギルド検死官と化してますね。
また、Scene.3では名前のみの登場ですが、提案した作戦の顛末が描写されています。前回の「第五都市は移民船に!?」のイベントで、鳴海マスターの描くハンターって(明示的に行動指針を示さない限り)横や縦の繋がりが希薄なイメージで描かれている印象を受けたので、連携を強化する提案を行いました。……で、あんまり提言の意味がなかったという結果なのですが、この辺は次回以降生きてくるのかも。
そんなことよりも、Scene.3でのリーンピアさんのド外道っぷりが印象的でした。ジルコンさん哀れ……。
イベントハガキには、プテルナを疑ってみる内容を書いて出してみたのですが、ハガキを出した後でプテルナが前作「約束の地の探索者」からの引継ぎNPCを知りました。
前作のPCたちと苦楽を共にして、ファンへのサービスで登場しているNPCが、実は真犯人だったりする訳がないですな。それは斬新過ぎます。今回はちと情報収集不足でした。シアの正体についても大ハズレです。
赤い流星、黒い三連星、毒ガスは「機動戦士ガンダム」のパロディですね。
■目的
赤ラピピの戦術を調べ、対処法を考える
■動機
前回、《ディスカバリー》で勝敗をつけられなかった、レシアとの決着に、今度は組織戦で挑みたい。
■プロット
私、「シア」を名乗る赤ラピピの正体は、動物型のスレイヴドールだと考えますわ。声明文冒頭の「イリテュイアの地に降り立った」なんて他人行儀な言い回しは、いかにもステラマリス人的でございますし。当然、この事件にはあの男、レシア・ドートが関わっていると考えます。
それにしても、これだけ生還者が少ないというのは、視界の悪い密林の中で少人数のパーティを各個撃破されているのではないか……と予想しています。予想の裏付けを取るため、正式な手続きを踏んだ上で、赤ラピピに襲われた者の検死や状況の検分に立ち会ったり、ハンターギルド監察官の権限で記録の閲覧を行ったりして、赤ラピピの戦術や、死亡したハンターの対処に手落ちがなかったかなどを考察します。……あ、私、ぐちょぐちょの死体は見慣れてますので、検死は平気でございますよ。
そうして調査結果をまとめた上で、探索中のパーティが襲われても、近くにいる別のパーティがすぐに駆けつけられるような、ハンター同士の連携や連絡網を整備するべきだと考えます。それに私、どうやらプテルナ様とは相性が悪いようなので、きちっと連携が取れないと、また問題を起こしかねません。《ディスカバリー》の一件では、チャンスが何度かあったのに、プテルナ様と足を引っ張り合っておりましたから。
あっ、それから一応、プテルナ様が敵と密通しているという可能性については(不信感を顕にはしないけれど、前回はそう考えると辻褄の合う部分が多いので)メモリーの隅に置いておきます。ハンターの不正活動を監視するのも、ハンターギルド監察官の勤めでございますので。