アカデミー生徒および十八歳以下のハンターの腕を競う競技会、『フレッシュマン・ハンターズ・コンペティション』がいよいよ開催された。
開始早々に参加資格を満たさず受付所で失格になる者、観客席でカメラを爆発させて救護テントに運び込まれる者、ルールを把握していなかったためにせっかくの作戦が無駄になる者……と、ひと波乱はあったが、大会は順調に進む。
アカデミー生徒らが注目しているのは、昨年度に一年生ながら優勝を飾ったセリウス・バーレット。セリウスと一太刀交えることを目標に、白兵戦部門のトーナメント戦では激戦が続く。……そんなアカデミー生徒たちの様子に、アカデミー教官ルカ・フォルケンとリッジ・クールハートは渋い顔だ。
「カウンター合戦に消耗戦……不毛ね」
「今日の奴らも大会の意味がまだ分かっていないようだな。もっとも、分かっていればこのレベルなら即優勝だろうけどな」
己の力量を見極めるため、あるいはごく個人的な野望のために。生徒たちの戦いは午後も続く。個性的な作戦で笑いを取りつつ失格していく者まで現れる中、優勝候補のセリウスは危なげない試合運びを続ける。
ところが休息時間中、そのセリウスが何者かに襲われた。襲撃者はセリウスの兄という人物を脅迫する目的で、セリウスを人質にしようとしたらしいのだが……。大怪我を負ったセリウスはリタイアとなり、セリウスとの対戦を望んでいた生徒は落胆は落胆する。
魔法部門の会場では、アイナ・クライトが緊張のあまり自信喪失していた。ルカ・フォルケンは授業のことを思い出すようにアドバイスし、彼女に治療IIのメモリシアを渡す。ルカの密かな助力によって、アイナは晴れ舞台で魔法を成功させる。ルカはそんな彼女を微笑ましく見守りつつも、少々厳し目の点数をつけるのだった。
事件はあったものの競技は全て終了し、全部門で二年生が優勝した。ルカとリッジは二人きりで、大会の隠された意図について語る。能力の高さだけならメモリシアで調べられるが、長期戦を戦う戦略や機転といった能力は数値には映らない。それを生徒に理解させることが、大会の真の意図であったのだ。
スカウトとも言うべき、ハンターギルド監察官ヴァイオラ・ノインツィヒは、テイマー部門の会場が一望できるスタンド席を見つけると、備え付けの椅子の上にビニールシートを広げて、そこに静かに腰掛けた。
「もう始まっているようですわね。どのような才能が眠っているか楽しみですわ」
ヴァイオラは持ってきたビデオカメラを手にすると、興味深げにファインダーを覗き込みながら大会の撮影を始めた。「今度の対戦相手はあなたですか?」
「よろしくなのですぅ〜」
ディサン・シャルロとマリリス・フリルアリスの戦いは緊張感の無い幕開けだった。
「これが終わったら、一緒に昼食でもいかがですか?」
「ワタシはお弁当を持って童てるので、一緒に食べるですう。ついでにアカデミーに料理部を作るために、あっさりと負けてくださいなのですぅ」
そう言うと、マリリスはアイアンメイデンを召喚し、先手を取った。
「おや、なかなかやり手のようですね」
ディサンも負けじとプティハウンドを召喚した。
「行きなさい、プティハウンド!」
「料理部のためにがんばるですぅ!」
命令を聞いた二体のデジタルクリーチャーがフィールドの中央で交錯した。しかし、戦いの舞台はどこかほんわかと、間の抜けた感触がぬぐえなかった。
「アイアンメイデン!」
ユンゲニューク・リュドベルフはやる気満々で自分のクリーチャーを召喚した。意気上がるユンゲニュークに対し、対戦相手のシルティア・カーネリアスは明らかに周りから浮いているメイド服姿でぼ〜っとユンゲニュークを眺めていた。
「……私、どうしてこの様な所にいるのでしょうか?」
シルティアは自分の置かれている状況がいまいち理解できていなかった。
「シャンゼリゼのお姉様たちに、わたしのことを知ってもらうために、あなたには負けてもらうわよ!」
「そうなんですか。頑張ってくださいね」
まだ理解できていないシルティアはユンゲニュークに、にっこりとほほえみかけた。
「行きなさい!アイアンメイデン!」
ユンゲニュークの命令で、アイアンメイデンはシルティアに抱きつこうと両手を広げた。
「……あら?」
シルティアは訳の分からないまま、軽いステップでアイアンメイデンの攻撃をかわした。
「……ああ、これが噂に聞く『戦争』なのですね♪」
手を叩いて妙な納得をしたシルティアは、軽快に呪文を唱えた。
「プティハウンド!」
シルティアの前に現れた黒い子犬は、攻撃で隙が生まれていたユンゲニュークに向かって突進した。
「くっ、プティハウンド!」
アイアンメイデンを諦めたユンゲニュークは、盾代わりに同じプティハウンドを石喚した。
「あら、同じクリーチャーでございますね」
熱い戦いに反して、シルティアが放つ天然な雰囲気がこの場を支配していた。白熱の戦いが繰り広げられている中、会場の片隅では混乱の渦に巻き込まれている者たちもいた。
「うわっ!?」
チサト・カグラの周りでプティハウンドが暴れまわっていた。あまり練習をしていなかったチサトは、プティハウンドを召喚するところまでは成功したが、制御を失敗してしまった。制御不能となったプティハウンドは暴走すると、誰彼構わずに襲い掛かり始めた。
「わっ! わっ! わっ!」
プティハウンドは召還主であるチサトに向かって突進してきた。驚いたチサトは、思わず腰にあったスプライトを抜いて、辺り構わずに乱射を始めた。
「銃は止めなさい! 銃は……きゃあ!?」
試合を見ていたソニア・アルフォートはチサトをなだめようとしたが、逆にチサトの弾がソニアに降りかかってきた。
「止めなさい、チサト!」
チサトはその声を聞いて、動きが止まった。その瞬間、チサトの魔力が途切れ、暴れていたプティハウンドが消え去った。そして、チサトはゆっくりと声が聞こえてきた方向を見た。
「あれだけ棄権しなさいと言ったのに……」
その声の主はチサトの兄、クルス・カグラだった。
「あ、あの、これには訳が……」
「……言い訳は無用です」
クルスは逃げ出そうとしたチサトの首根っこを掴んだ。
「……後はよろしくお願いしますね」
「ちょ、ちょっと、ご、ごめんなさい! ごめんなさいってば!」
クルスはソニアに向かってやさしい表情でほほえむと、そのままチサトを会場の外へと引きずっていった。
「……とりあえず、この勝負は不戦勝でいいのかしら?」
ソニアは笑ったが、その表情は少し引きつっていた。「やはりアカデミーの生徒さんたちは、素晴らしい能力を持っていますわね。……制御できないのは、論外でございますが」
ヴァイオラは頭のうさみみをピクピクと揺らしながら、手元のメモに参加者たちの評価を書き加えていった。ただ、チサトの部分にはパツ印が三つ書いただけだったが。
とんちんかんな言動でボケっぷりを披露するネコ耳メイド、シルティアさんは、「華胥の国の花嫁」でただ一人真相を見抜き、ヴァイオラたちの推理の誤りを指摘して活躍した名探偵さんでもあります。別のリアを読む限り、こちらの方が地のようですが……。なんだか金田一少年の運動会を見に来た明智警視の心境。
ソニアさん、ユンゲニュークさんとは、(アカデミーでは保険医をしているアリシアさんを含めて4人で)アクションリア「小さな落し物」第2回でも顔を合わせています。テイマーとフォースしかいないパーティで魔法の効きにくいグリーズを相手にした、個人的には忘れがたいアクションリアです。ユンゲニュークさんは、風水アスカさんのところのPC発言BBSに顔を出していた方ですね。
クルスさん、チサトさんは、NW5月号のセイラーズ・インにイラスト投稿を出されていた方です。
第2回のみ飛び入り参加。行動内容としては、「クレーター観測ツアー」第1回で没ったプロットの焼き直しです。
やはりこういう行動はPBMでは向かないか、キャラに合っていないか(裏表のないPC向けだったかも)、もっと他のアプローチでアピールしないとならないのか……。二度ともイメージした結果にならなかったので、方法を変える必要がありそうです。漠然と「ファ○ブ○ター物語」とか「ミスター○っ子」のような大袈裟な反応を期待していたのですけどね……。まあ、確かにこのキャラクターでこのプロット内容では、意図した通りのリアクションにならないのも仕方ないかも知れません。
キャラクター描写はイメージ通り以上でしたけどね。
プレイヤー数が多めで、人口密度の高いリアクションでした。非常に小さなフォントサイズで書かれているのですが、11ページで、全文テキスト化してファイルサイズを調べたところ、24.5KBで、平均より若干多いくらい。
失敗している行動の方が、なんとなく、模範的な行動よりも個性的で目立っている印象があります。まあ、ハンターとしては半人前の、アカデミー生徒たちの奮闘ぶりを描く話ですからね。
途中からセリウスの名前が「セリオス」に変わっていて、あらすじを書くときにどちらが正しいのか迷いましたが、NPC一覧の表記に従い「セリウス」に統一しています。
■目的
競技会の様子を実況中継
■動機
ハンターギルドの人事部監察課に所属するものとして、有望なアカデミー生徒を青田買い。
■プロット
観客席にビニルシートを広げて一角を陣取り、競技会の模様を実況つきでビデオ撮影。詳しい記録メモと一緒に、人事課に回す資料とします。
他にもハンターギルド関係者が来ていれば、アカデミー生徒の能力について批評をします。特にデジタルテイマー部門に関しては、自分の専門でもあるので、詳しく解説できます。
目に付く点、例えば(プレイヤーがアピールしたい)珍しい特徴に興味を示してみたり、説明台詞で解説したり、気の利いた行動には素直に感心してみせたり、身振りを交えてオーバーリアクション気味に驚嘆してみたりします。主に生徒の長所を褒める立場で評価をし、眉をひそめるような行動を見ても、余程悪質でもない限りは、人前で他人の批判はしません。ニッコリ笑って口では褒めつつ、記録メモには黙ってバツ印です。